「ファシスト」が「日本軍国主義」に変わった夜
中国外務省が公表した乾杯のあいさつで、習氏は「中国と米国の人民は、日本軍国主義の侵略者との戦いで肩を並べた」と述べた。
ヒマラヤ越えの空路「ハンプ・ルート」を共に切り開いたことや、中国側が多くの犠牲を払いながら米国人パイロットを救出したことにも触れ、戦時中に築かれた友情は世代を超えて受け継がれると語った。
歓迎式典では「ファシストの侵略者」と語られた相手が、晩餐会では「日本軍国主義の侵略者」と名指しされた。米大統領が米中の戦時協力をたたえた日に、中国の指導者はホワイトハウスで、日本との戦争を両国共通の記憶として語ったのである。
中国は高市政権の防衛政策を「新たな軍国主義」と結び付けて批判してきた。日本側は今年5月、この批判に反論している。
そうした経緯を踏まえれば、晩餐会での言葉を歴史だけの話として聞き流すのは難しい。中国にとっては、米政府の文書が裏付けた「米中共闘」の物語という、対外発信に使える材料が一つ増えたとも言える。
習氏は米国との関係を温める場で、日本との過去を持ち出した。米国には共に戦った相手として語りかけ、日本には戦争の記憶を突き付ける。二つのメッセージを一つの乾杯の言葉に込めたようにも映る。
東京が警戒した台湾を巡る取引
高市氏が米中首脳会談の前にトランプ氏と会った背景には、台湾問題を含む対中政策への日本側の懸念があった。
台湾海峡の緊張は、日本の南西諸島の安全や海上輸送路に直結する。中国の求めに応じて米国が台湾を巡る立場を変えれば、その影響は日本にも及ぶ。
東京にとって重要なのは、米中の関係改善そのものより、その過程で日本の安全保障に関わる問題が取引されないかどうかだった。
会談で習氏は、米国が「台湾独立に反対する」と明言するよう求めたと報じられている。トランプ氏が応じた形跡はなく、成果文書にも台湾への言及はない。少なくとも文書の上では、米国は北京に新たな約束をしていない。
気がかりなのは、台湾向けの武器売却の扱いだ。約140億ドル規模の台湾向け武器売却案は、米政府による承認が保留された状態にあり、トランプ氏自身がこれを中国との「交渉材料」になり得ると語っていた。ルビオ国務長官は、遅れの理由を米国の兵器生産を巡る事情だと説明している。
台湾を巡る基本方針が変わったわけではない。だが、武器売却が対中交渉の駆け引きに使われるなら、米国がどこまで台湾を支えるつもりなのかは外から読みにくくなる。北京に譲歩したのかどうかが不明瞭な状態で、日本を含む周辺国の不安を生んでいる。













