その代償は重い。ウクライナはドンバス全域を失うことに
一方のロシアはクリミアへの陸の回廊を失い、補給を再びクリミア橋や海上輸送に大きく頼らざるを得なくなる。
ヘルソン州では、ロシア軍がドニプロ川の東岸から退く。ウクライナは州都ヘルソンの対岸の地域を取り戻し、黒海沿岸とクリミアの北への足場を再び手にする。ドニプロ川を挟んで向かい合ってきた両軍の戦線も、ここでなくなる。
ウクライナにとってこれは、軍事力だけでは取り返すのが難しかった広い南部の占領地を、話し合いで取り戻すことを意味する。アゾフ海沿岸の支配を取り戻すことで、農地や港、エネルギー施設も戻ってくる。国の存続と経済の立て直しを考えれば、非常に大きな利益だ。
しかし、その代償は重い。ウクライナはドンバス全域を失うことになる。
ルハンスク州はほぼ全域をロシア軍が支配しているが、ドネツク州には今もウクライナの統治下にある部分が残る。州全体をロシア側にするのなら、ウクライナ軍は今の支配地域から戦わずに撤退しなければならない。
クラマトルスクやスラビャンスクを含む地域まで対象になれば、2014年以降に巨額の費用と多くの犠牲を払って築いてきた防衛拠点を手放すことになる。
領土をあきらめることが最も難しい政治判断
ドンバスは戦争が始まる前から続いてきたロシアとウクライナの対立の中心にある。ロシアは2014年、クリミアを一方的に併合した。同じ年、ドンバスでは親ロシア派の武装勢力による紛争が始まった。
プーチン氏は、ロシア語を話す住民を「保護」することを侵攻の口実の一つに掲げてきた。ドンバス全域とクリミアを手に入れれば、ロシア政府は国内に向けて、戦争の主要な目標を達成したと宣伝できる。
ウクライナにとっては、領土をあきらめることが最も難しい政治判断だ。前線で守ってきた土地を交渉で渡せば、軍や遺族、避難した住民から強い反発が出るのは避けられない。ロシアの支配から逃れてきた住民が、また移住を迫られる恐れもある。
クリミアの扱いも複雑だ。ウクライナは一貫して、クリミアを含む全ての領土を取り戻すと掲げてきた。米国など西側諸国も、ロシアによる一方的な併合を認めていない。
米国案がクリミアを正式にロシア領と認める内容なら、武力による国境の変更を西側の中心国が追認することになる。他の地域でも同じような試みを招きかねない、という批判も強まる。













