40歳の転職で突きつけられた「何ができますか」

池上さんには、海外赴任という分かりやすい経歴があった。

英語を使った業務経験があり、海外法人との調整や現地スタッフのマネジメントにも携わった。本人も当初、それらは転職市場で十分な強みになると考えていた。

ところが、実際に転職活動を始めると、思った以上に苦戦したという。

「『シンガポールに6年いました』と言うと、最初は興味を持ってもらえるんです。ただ、面接が進むと当然、『それで当社で何ができますか』という話になります。海外経験そのものを評価してもらうというより、そこで得た経験をどう再現できるのかを求められる。当たり前なんですが、会社の看板を外されると、自分が思っていたほど説明できないんですよね」

特に戸惑ったのは、40歳という年齢だった。

20代や30代前半であれば、将来性を含めて採用されるケースもある。一方で40歳前後になると、企業側が求める役割はより具体的になる。管理職として何人を率いたのか、どんな数字を残したのか、どんな領域の専門性を持っているのか。

池上さん自身、「海外で仕事をしてきた」という経験と、「転職先が即戦力として求める能力」の間にずれがあることを初めて意識したという。

さらに、妻の仕事も簡単には決まらなかった。

6年間の海外生活では、家庭の事情から妻は仕事を離れていた。帰国後、子どもたちの生活が落ち着いたところで再就職を考え始めたが、上の子は小学4年生、下の子は小学1年生。学校行事や放課後の生活、長期休暇などを考えれば、働ける時間には制約がある。

子どもたちは帰国後、地元の少年サッカーチームに入り、日本での生活にもとけ込んでいる
子どもたちは帰国後、地元の少年サッカーチームに入り、日本での生活にもとけ込んでいる

「自分だけの問題だと思って会社を辞めたわけではないですが、辞めて初めて、家族全員の働き方がつながっていることを実感しました。妻がフルタイムで働こうとすれば、子どもの送り迎えや長期休暇をどうするかという問題が出る。

逆に僕が勤務地を限定すると、応募できる会社も減る。海外勤務を受け入れれば選択肢は増えるけれど、今度は家族がついてこられない。何かを選ぶたびに、別の選択肢が消えていく感じです」

会社員時代には「転職先を選ぶ」つもりだった。

しかし、退職から時間がたつにつれ、池上さんの意識は「自分はどこから選んでもらえるのか」へと変わっていった。