対戦校の空気「僕らにビビってました」

池田の蔦監督と黄金期のエース、畠山投手(写真/産経新聞社)
池田の蔦監督と黄金期のエース、畠山投手(写真/産経新聞社)
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池田は圧倒的な攻撃力で甲子園を勝ち上がった。1982年夏、準々決勝を早稲田実相手に14対2、決勝を広島商相手に12対2、翌春も初戦を帝京相手に11対0、二回戦を岐阜第一相手に10対1。小細工無しで打ち勝つ池田の野球は甲子園で異彩を放った。

初優勝を機に、池田を取り巻く世界が一変したことに江上は気づく。

「バスに乗って遠征先の球場へ向かう。でも、到着できないんです、観客が殺到していて。困り果てた運転手さんが『もうこれ以上動けません』と。だから僕らは、球場から500メートルくらい離れたところで降りて、そこから人だかりの中を走って向かう。そんな光景が日常になりました」

対戦校の空気も変わった。自分たちが、異様な視線を送られていることがわかった。

「僕らにビビってました、明らかに。相手が自滅していく試合も多かったんですよ。評判のピッチャーでも、僕らと対戦する試合に限って四球を連発したり。たしかに打撃力はあったけど、半分くらいは『俺ら本当に実力で勝ってんのかな』っていう疑念もありました。言い方悪いですけど、相手が勝手に負けてくれた、みたいな……」

正直ね、と江上が続けた。

「この状態、いつまで続くんかなって。池田の時代は永久には続かないだろう。どこかで絶対に潮目が変わる。僕はそう思ってました」

夏春連覇で池田の人気は加熱した。

取材を兼ねて大和寮に泊まり込むメディアの姿もあった。女性誌『Seventeen』まで池田を特集した。全国から指導者がこぞって視察に来た。東京から池田を訪れる監督もいた。

「蔦さんの見られ方も連覇を機に変わりましたか」とわたしは訊いた。

文/田中仰

『監督、神になる 池田高校 記憶の衝突』(文藝春秋)
田中 仰
『監督、神になる 池田高校 記憶の衝突』(文藝春秋)
2026/7/29
2090円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4163921297
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「カネはやめられん」
《昭和の甲子園を支配した“高校野球の神様”は、聖人か、守銭奴か?》
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甲子園優勝3回、準優勝2回。
「さわやかイレブン」「やまびこ打線」で知られる徳島県立池田高校を率いた蔦文也監督は、日本で最も愛された高校野球監督だった。
しかし池田はその後甲子園から姿を消し、蔦が人前に現れることもなくなっていく。

蔦の死から25年が経った今、現地を取材すると「酒好きの豪傑監督」「金好きな欲望ジジイ」など証言者によって人物像は二転三転していく――。
親族、袂を分かった元コーチ、告発文を書いた元球児などへの取材から、池田の真実、そして“神様になった監督”の正体に迫るミステリーノンフィクション。
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《本書に登場する証言より抜粋》
「金の好きな欲望ジジイ」――当時の教え子が綴った未公開投書文
「正直言うて、指導力っちゅうのはないね」――川原良正(黄金期を支えたコーチ)
「お寺にはようけ寄付しました」――蔦隆司(次男)
「野球が大好きな、普通のおじいちゃんなんです」――江上光治(甲子園連覇時の主将)
「蔦さんを悪人にはせんといてください」――梶田茂生(86年センバツ優勝投手)
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