独裁体制を支える二つのバランス
つまり、新しい体制を求める声がどれだけ強いかという需要と、現状の体制を支える基盤がどのくらい強いかという供給とのバランスによって、独裁の安定/不安定が決定されます。
需要は、いずれも広い意味での正統性の問題と言え、体制を維持するためには、適切な政策を通じてさまざまな方面から支持されることがポイントとなります。供給に関しては、独裁を維持するための方法に連動しており、これらの低下によって支持者から見捨てられる可能性が高まります。
端的に言えば、現状の政治体制に対して人びとが不満を抱くとき、体制変動の需要が高まり、そうでなければ独裁を打倒する誘因が国民の間で醸成されません。また、仮に国民が体制に対して不満をもっていたとしても、軍などのエリートが離反せず、取り締まりなどを行なうことができれば体制は維持されるのです。
独裁者の顔がプリントされたTシャツを着る人(写真/shutterstock)
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では、こうした危機はどのようなときに生じるのでしょうか。大まかに言えば、経済危機や治安悪化、政治スキャンダルなどに伴う体制の正統性低下や、独裁者の後継者問題などによるエリート間の権力闘争、あるいは外国からの価値の流入による体制に対する不信感の増大などです。
危機によって独裁を維持する手法が質・量ともに減少して、社会からの反体制運動が増大するとともに、軍や政治エリートが独裁者を守る誘因が低下します。そして、こうした時期に生じた何かのきっかけによって独裁は打倒されることになります。
文/大澤傑
『独裁者の手口 なぜ権力を握り続けられるのか』 (PHP研究所)
大澤傑
2026/9/16
1320円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4569861609
独裁者は何を考えているのか?
ヒトラー、プーチン、習近平、トランプ…「独裁者」と呼ばれる指導者はどう権力を握り、維持してきたのか。
彼らの思考・行動には共通する法則がある。
また本書では政治指導者だけではなく、カルロス・ゴーン、イーロン・マスクといった経営者の権力掌握術も紹介。
ビジネスパーソンが知っておくべき、権力の正しい使い方も分析。
権威主義に精通する気鋭の研究者が、権力者の思考法と独裁への向き合い方を明かす。
独裁の近現代史を知れば、世界の今がわかる!
ヒトラー:危機をあおって救世主を演出
プーチン:法律を変えてイエスマンを配置
習近平:反対者を粛清して個人崇拝を実行
金正恩:英雄譚をつくって正統性を誇示
カルロス・ゴーン:強権的手法で社内風土を刷新
目次
第1部:独裁者になる
第1章:危機感をあおる
第2章:迅速に、時には地道に
第3章:自分に有利なルールをこっそりとつくる
第2部:独裁を維持する
第4章:独裁のタイプを見極める
第5章:反対する者を排除する――出る杭を打つ
第6章:周囲の者にアメを――最大の敵は身内にあり
第7章:人びとから愛される――愛は世界に存在する最も強い力
第3部:独裁の帰結
第8章:独裁者の末路
第9章:独裁者と向き合う