取材で見えた民族融和も希望
国軍が組織として行ったロヒンギャの女性に対する集団レイプは、まるでマニュアルがあるかのような規律に基づいた性テロリズムであった。忌まわしい記憶を植え付けて二度とラカイン州に帰還させないことを目的にしている。
被害に遭った女性の夫とのコミュニケーションもまた信頼を得た今泉によって成立し、再生していこうとする2人のリアルが醸し出される。
他にも本書ではロヒンギャひとりひとりの生き方が活写されている。欧州の医療支援団体で働く16歳の少女ライラは、兵士によるレイプで望まない子どもを産んだロヒンギャの女性たちに対するケアなどをしながら、自身の使命に目覚めていく。
ロヒンギャの中でも虐げられる地位にある女性たちを助けたいと考えるようになっていくのである。そのためにも勉強を重ね経験を積もうと努力を続けている。
「ロヒンギャコミュニティでは教育は男子が優先され、女子は学校に行く代わりに家事をして家族に尽くすことが求められてきました。ライラのモデルも結婚と出産で一時、仕事を諦めていたのですが、非常に有能で家庭の中でも働いてもらった方が助かるということで再び、医療支援団体で働いています。
全体ではないかもしれないんですけど、キャンプの中でも変化が起きてきていて、女性が家に縛られずに仕事をする方が、コミュニティが活性化するということで、仕事に就くことを勧めていく風潮が出てきました。
ビルマ近現代史の第一人者である上智大学名誉教授の根本敬先生にも読んでいただいたのですが、根本先生もライラが印象深かったそうです。新しいロヒンギャの女性像としても日本でも長谷川瑠璃華さんのように活躍されている方も出て来ています」
――ロヒンギャの人物像をそれぞれに造形していく中で、他に印象に残っている人はいますか。
「ユヌスとアウンミンを描く時のモデルですね。ロヒンギャとラカインは激しく対立して、それぞれ憎しみを持って兵士に志願していくという印象を持っていたのですが、あるロヒンギャの男性はかつてラカイン人の友人がいて、2017年に国軍が襲って来たときも『あそこに行けば、助かるから』と教えてくれたそうです。
キャンプに入ってからはその友人と連絡が取れなくなってしまったのですが、今でも会いたいと言っていました。
また取材した中で、第二次大戦のときに日本軍が攻めて来たときの記憶を持つラカイン人の高齢の女性がいたんです。そのとき怖くて家に隠れていたら、ムスリムの友だちの家族が食べ物を持って来て助けてくれたと言うんです。
2012年のコミュナル暴動のときは、逆にそのロヒンギャの友人を助けたそうです。民族主義者たちによる厳しい衝突は続いていても草の根の人々は、属性だけで判断せずに共存したがっているというのは、事実として感じたので、民族融和も希望として投影しました」














