たすきをつなぐ、思いをつなぐ
──林冲といえば、ライバル関係ともいえる公孫勝とのやりとりもありましたね。
「豹子頭林冲、着到」の後、敵のトップを討ち取って戦に勝ったあとの公孫勝とのやりとりですね。
「どうも、おまえは、まともな戦は得意ではないのだな、公孫勝」
馬から降り、林冲が言った。
「今度ばかりは、おまえの騎馬隊の速さが、身にしみるほど嬉しかった」
(北方謙三『水滸伝』第五巻「玄武の章」集英社文庫 p117)
四巻で二人が言い争った場面がありました。
林冲が戦場に駆けつけて公孫勝の致死軍を救うんですけど、林冲が公孫勝に「なぜ、私の到着を待たなかった」と言う。公孫勝は、致死軍はほかの誰も当てにせず、当てにされる軍だと言い、林冲はそれが傲慢だと言う。公孫勝は誇りの話をしているんだって言っていました。
でも、ここでは少し公孫勝が軟化して、林冲に素直に礼を言っている。この二人のやり取りは本当に熱い。
林冲ってぶっきらぼうなのに、いろんな人と交流があって、熱いものを感じさせるキャラクターですよね。
──林冲は、五巻の最後で楊志の遺児、楊令を託されます。そういう意味でもこれからますます活躍が期待できそうです。
楊志の心が林冲を経由して楊令に受け継がれていくんでしょうね。
晁蓋は、林冲の手を取り、楊令の肩に置いた。
「頼むぞ、林冲。楊志の息子のこともな」
(北方謙三『水滸伝』第五巻「玄武の章」集英社文庫 p381)
林冲は妻の張藍を亡くしてから、自分を痛めつけたり、死に急ぐようなところがありました。その林冲に晁蓋は、楊志の跡を継いで二竜山を率いることを命じ、楊志の大事な息子を託す。そうすることで、晁蓋は林冲に死ぬなと暗に言っている。そういう思いがあることがいいですね。五巻は誰かが誰かに何かをたすきでつないでいく感じが、すごく出てきました。
──公孫勝も少しずつ変化しているようですね。初登場時は血が通っていないような冷たさがありましたけど。
公孫勝と童威が口論するシーンが好きですね。「豹子頭林冲、着到」よりも少し前の場面になりますけど、宋江が官軍に包囲されていて、なんとか敵陣に穴を開けたい。でも、膠着状態になっている。何度攻撃を仕掛けてもだめ。
そこで童威が双子の弟の童猛と決死隊を組んで、敵陣に留まり続けるという提案を公孫勝にします。公孫勝はそんな危険なことはさせられないと言うんですが、考えを変えます。
公孫勝は、ふっと冷やかな気分に襲われた。死をいとわぬと口で言うなら、実際に見せて貰おうではないか。そんな思いになった。
「それなら、やって貰おう。いまから攻めこみ、できるだけ深く押し、おまえたち兄弟を残して、われわれは離脱する」
「おうよ。受けて立とうではないか」
「間違えるな。敵は私ではないぞ」
「なんとなく、敵みてえな面してんだよ、あんた。笑わねえし」
「行くぞ。いいな。弟と話し合わなくてもいいのか?」
「そこが、双子よ。なぜだか、お互いの気持はわかる。言葉なんて、いらねえんだよ」
(北方謙三『水滸伝』第五巻「玄武の章」集英社文庫 p111)
まったく違うタイプの二人が言い合うんですけど、意見をぶつけ合いながら、相手の本気を探っているようにも思えて、緊張感がたまりませんでした。














