十五世紀琉球の熱き物語
矢野隆が絶好調だ。合戦を題材にした「戦百景」シリーズを矢継ぎ早に三冊まで刊行して、大いに気を吐いたかと思えば、バイオレンス時代小説『さみだれ』で、読者のド肝を抜く。そして最新刊となる本書『琉球建国記』では、十五世紀の琉球の動乱を、圧倒的な筆致で描き切ったのだ。どれを読んでも興奮必至。まさに、今が旬の歴史時代作家なのである。
琉球の東に突き出た勝連半島は、按司(首長)の茂知附の苛斂誅求に喘いでいた。そんなとき、按司の臣下の加那が、勝連の無頼漢の頭目をしている赤を訪ねてくる。加那を大器と見た赤は先を見据え、仲間の朱舛、白先、氷角たちと共に、茂知附に仕えた。やがて彼らは、横暴を極めた茂知附を討ち、加那が新たな按司になるのだった。
一方、琉球王府も揺れていた。琉球を一代でまとめた英雄・尚巴志王の七男の尚泰久が、内乱を経て王となる。しかし尚泰久の側近の金丸は、まだ満足できない。あくなき欲望に突き動かされる彼は、主君さえ手駒にして、策謀を巡らせる。その金丸の思惑に、加那たちも巻き込まれていくのだった。
いきなり恥ずかしいことを告白するが、私は十五世紀の琉球の歴史に詳しくない。したがって本書の内容の、どこまでが史実なのか、さっぱり分からなかった。にもかかわらずページを捲る手が止まらない。まるでヤンキー漫画のような殴り合いから始まる加那のストーリーは気持ちよく、策謀にまみれた金丸のストーリーは重苦しい。しかも、支配せずに治める加那と、支配こそが人間の真実だと確信している金丸の、対比が際立っている。そんな二人が対決するのだ。どちらが勝つのか分からないからこそ、面白くてたまらないのである。
さらに作者の特色がよく出た、迫真の戦闘シーン、激動の中で成長していく氷角に託されたもの、多数の人物が織り成すドラマなど、読みどころが満載。ただごとではない熱気を感じる、渾身の歴史小説なのだ。