「ウチも“打倒大阪桐蔭”」とメールをしてきた監督

「全国の高校生たちが本当によくやってくれました。たとえば今日の下関国際さんもそうですけれど、大阪桐蔭さんとか、目標になるチームがあったからあきらめずに暗いなかでも走っていけたので。本当にすべての高校生の努力のたまものがあって、最後に僕たちがここに立ったというだけなので。ぜひ、全国の高校生に拍手してもらえたらな、と思います!」

8月22日、全国高等学校野球選手権大会決勝で仙台育英が下関国際を破り、初優勝を遂げた。東北地方の高校が104回の歴史を誇る同大会で優勝したのは、史上初の快挙だった。試合終了直後、仙台育英の須江航監督の優勝監督インタビューは、ハートフルな内容で社会的に大きな反響を呼んだ。

今年の高校3年生は「コロナ直撃世代」である。高校入学時点でコロナ禍は始まっており、6月入学を余儀なくされた生徒も多い。須江監督の口からは「青春って密なので」という名言も飛び出したが、実際に「コロナさえなければ……」という思いを飲み込んだままの人は全国に多かったはずだ。そんな高校生、指導者、保護者にとって、須江監督のインタビューは胸のしこりが取れるような救いの言葉だったに違いない。「優勝したのが仙台育英でよかった」と思わせてくれるスピーチだった。

私は今春、「大阪桐蔭を止めるなら、どんなチームか?」というテーマで記事を書いた。そのときは7校の名前を挙げたが、「あのチームには難しいだろう」など多くの反響が寄せられた。そんななか、たった一人だけ「ウチも“ストップ・ザ・桐蔭”にエントリーさせてください」と連絡してきた現役監督がいた。それが須江監督だった。

須江監督は仙台育英投手陣のデータもメールで送ってくれた。2〜3年生19人の投手のうち、最速140キロを超える投手は12人もいた。「日本一の大阪桐蔭マニア」を自認する須江監督は、「大阪桐蔭に勝つには“マシンガン継投”しかないと思っています」と熱弁した。私はすぐに仙台へと飛び、仙台育英の投手陣について記事を書いた。記事は多くの読者に読まれ、仙台育英の投手層の厚さは広く浸透した。その後、最速140キロ超の投手は夏までに14人に増えたそうだ。

今にして思えば、須江監督は私以外にも多くのメディア関係者に同様のデータを送っていたのではないだろうか。

多くの取材を受けることで、選手たちに自信を植えつける。「打倒・大阪桐蔭」を打ち出すことで、全国制覇を明確なイメージとして描き出す。高校野球ファンの間で「今年の仙台育英は強い」というムードを作り出す。須江監督には、そんな狙いがあったのかもしれない。