今年5月に開かれた国内女子メジャー第1弾「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」は、20歳の山下美夢有が初日からトップを譲らない完全優勝で、ツアー2勝目、メジャー初制覇を果たした。
山下の身長は150cm。2001年8月2日生まれのミレニアム世代である。2019年の厚生労働省による「国民健康・栄養調査」によると、20代女性の平均身長は157.5cm。山下は平均を7.5cm下回る「小柄な女子」だ。
ちなみに昨年の同大会を制したのは、やはり身長150cmの西村優菜。ゴルフは肉体的な接触がないスポーツとはいえ、1日18ホール、約4時間近い競技時間で、アップダウンのあるコースを10キロほど歩く。しかもそれが4日間(大会によっては3日間)続くのだ。遊びでプレーするのならともかく、プロとして賞金を稼ぐためにするには、かなりの体力、持久力、瞬発力、運動能力が必要なのはいうまでもない。
山下、西村両選手だけでなく、ツアー6勝とプラチナ世代の勝ち頭で、現在アメリカツアーに挑戦中の古江彩佳は153cm。山下が勝った「ワールドレディス」で2位になった青木瀬令奈も153cmだ。ちなみに彼女は、今週6月9日〜12日で開かれている国内女子ツアー「サントリーレディス」のディフェンディングチャンピオンでもある。

「他のスポーツという逃げ道がなかった」ゴルフで“小柄”な女子プロが活躍できる謎をタケ小山が分析
日本の女子ゴルフで平均身長を大きく下回る「小柄な選手」が大活躍している。国内女子メジャー第1弾の大会では、2年連続で150cmの選手が制覇。一般的に見れば、不利に思える低身長な選手の活躍の背景には何があるのか。プロゴルファーで解説者のタケ小山氏に見解を聞いた。

身長150㎝と小柄ながら、大活躍を見せている山下美夢有 画像/Getty Images
150cmの女子プロがメジャー制覇

山下と同じく身長150cmの西村優菜も好成績を収めている 画像/Getty Images
また、今シーズンすでに5勝を挙げている西郷真央もほぼ平均身長の158cm。黄金世代誕生のきっかけをつくり大活躍中の勝みなみは157cm、同じく黄金世代の小祝さくら、臼井麗香も158 cmと、決して高身長ではないのに活躍中の選手は枚挙にいとまがない。
ちなみに2022年の女子ゴルフツアーのシード選手58名の平均身長を算出してみると、162.4cm(日本女子プロゴルフ協会公式HPに基づき算出)。20代女性の平均を4.9cmほど上回っている。全体で見てみれば、やはり「小さいから強い」わけではなく、彼女たちが、「小さくても強い」のがわかる。
「小さくても戦える」日本発の道具の進化
こんな現状に関して、プロゴルファーで解説者のタケ小山氏が分析してくれた。
「体が小さくても強くなれる、その最も大きな理由は、やはりゴルフがパワーのあまり関係ないスポーツになってきたこと。肉体がハードウェアだとすれば、クラブやボールなどの道具はソフトウェア。このソフトウェアが進化したことで、ある程度の力があれば、力のある人と遜色ないレベルまでボールを飛ばせるようになってきました。これが大きいですね。
そして体が小さくてもボールを飛ばせる、戦えるようになったのは、日本のゴルフ産業界が道具を進化させたからです。今では常識になっている樹脂コアのマルチレイヤーボールを開発したり、ドライバーヘッドの素材をステンレスからより強度の高いチタンに変えて大型化したり。こういうここ最近の新しい『原理』や『デザイン』は日本発なんです」

取材に応じるタケ小山氏 撮影/一ノ瀬 伸
確かに、同じように道具を使う球技として野球があるが、ボールやバットの反発力規制によって、ハードウェアである肉体が、その競技の優劣を競う上で大きなウェートを占めているように見える。守備や駆け引きなど、パワー以外の要素もたくさんあるが、投げる・打つという基本的パフォーマンスに関しては、肉体的パワーがものをいうのは否定できないだろう。
例えば、プロ野球の平均年棒ナンバー1、福岡ソフトバンクホークスに在籍する104名の選手の平均身長は180.5cm(2022年1月現在。球団公式HPに基づき算出)。前出の2019年の「国民健康・栄養調査」によれば、20代男性の平均身長は171.5cmで9cmの隔たりがある。野球とゴルフを一概に比較できないが、やはり体は大きいほうがスポーツエリートになりやすいことを雄弁に物語っている。
では、男子ゴルフの2022年シード選手68名の平均身長はどうだろうか。その結果は175.4cmで、20代男性の平均身長を3.9cm上回っている。男女ともに平均よりはやや大きいが、野球選手ほどの突出感はない。
今年の国内男子ツアー競技は8試合が終了(6月8日現在)しているが、うち7戦に勝った日本人選手は全員が170cm未満。先週行われた国内メジャーの「日本ゴルフツアー選手権」と「関西オープン」に勝った比嘉一貴は158cmと、男性としてはだいぶ小柄なのだ。
男女ともに、やはりゴルフはソフトウェアたる道具を使いこなす能力、テクニックやメンタルが問われるスポーツなのだとわかる。
競技的な背景と未来の変化予想
タケ小山氏は続ける。
「女子に関して現状を見れば、体の小さな人が戦える、プロとして食べていけるというスポーツがゴルフくらいしかないんですよね。彼女たちには他のスポーツという逃げ道がなかった。実は男子も同じで、体格のいい人は、野球、サッカーと流れていって、体が小さくても勝負ができる、稼げる可能性があるってことでゴルフにくる。
女子にとって現在の日本で一番稼げるプロスポーツはゴルフです。トップのツアーだけでも年間40試合ほどあって、賞金総額が約45億円。さらにそれを取り巻くスポンサードの総額まで考えると、おそらく250億円規模の産業になっていると思います。メディアに出る機会も増えて華やかさもあるとなると、体格のいい人やこれまで他のスポーツに流れていた人も入ってくるようになって、今後、人材のリソースはますます増えそうです」
現在も、昨年の全米女子オープン覇者の笹生優花(166cm)や、国内メジャー2勝を挙げている黄金世代の原英莉花(173cm)ら体格に優れたプレーヤーはもちろんいる。
「僕は、そう遠くない未来に大きな選手、パワー溢れる選手が主流になると思います。だって有利ですもん、体格のいい選手のほうが」(タケ小山氏)
はたして、タケ小山氏の「予言」は的中するのか。いずれにしても、ゴルフファンとしては、バラエティに富んだ選手が活躍してくれるのはウェルカムである。
取材・文/志沢 篤