「ひじき、レバーは毎食。納豆は1日4パック食べていた」五輪金メダリスト高橋尚子が明かす現役時代の「マラソン飯」
コロナ禍で運動不足解消のために走り始める人が増えているが、3日坊主で終わったしまった…という人も少なくない。では長く続けるにはどうすればいいのか。ランニングに関する執筆も数多い南井正弘氏が五輪金メダリスト・高橋尚子さんら15人に話を聞いた『人は何歳まで走れるのか 不安なく一生RUNを楽しむヒント』より一部を抜粋、要約してお届けする。
高橋尚子さんは、2000年のシドニー五輪の女子マラソンで、陸上競技における日本女子初の金メダルを獲得し、国民栄養賞も受賞。それ以降も2001年のベルリンマラソンで当時の世界最高記録をマークするなど、日本の女子マラソン界を長きにわたりリードしてきました。

2008年の現役引退後は走ることの素晴らしさを伝える活動を続けてきており、ランニングというスポーツの普及に大きく貢献しています。自らの名を冠した「高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソン」や青梅マラソンを始めとして、全国各地のマラソン大会にゲストランナーとして参加されているので、実際に接したことのあるランナーも少なくないでしょう。
そんな高橋さんに、現役を退いたあとも走り続けることができる理由、市民ランナーへのアドバイスをお聞きしました。
小出監督とのリラックスラン
――自分の周囲では、現役生活を終えると走らなくなってしまう元陸上部の人が少なくありません。特に高いレベルで走っていた人ほどその傾向にあると思うのですが、高橋さんが現在も走り続けることができるモチベーションは何ですか?
真っ先に挙げられるのは、走ることが今でも好きだということですね。現役時代に小出義雄監督と一緒にトレーニングしていた頃は、非常にハードに練習していたと思います。普段は1日40㎞ほどは走っていましたし、土曜日には80km走りました。
実業団やプロの選手として活動していたので、苦しい練習も仕事だからやらなければならないことですが、終わった瞬間に「今から私の時間!」と頭を切り替え、通常練習にプラスしていろいろな場所を散策。「探検ラン」と称し、小出監督も誘って1時間ほどクールダウンを兼ねてゆっくり走りました。
それが私の遊びの時間というかリラックスタイムでした。この当時から仕事の時間と遊びの両方を持つことができていました。
この楽しむ走りというのが、ある意味小さい頃の「陸上が好き」という原点回帰になっていたことによって、ハードなトレーニングをしても最終的には楽しんで終わることができ、最後まで陸上を嫌いにならず、走ることをずっと好きなままでいられた理由だと思います。
現役を引退したことによって、仕事の部分は、選手としてハードなトレーニングをすることはなくなり、キャスターとしてアスリートにインタビューをしたり、イベントにゲストランナーとして参加するなど、大きく変化しましたが、遊びとして走ることを楽しむという部分は、現役時代から変わっていなくて、それが今も走り続けられる理由なのでしょうね。
――一般のランナーが年齢を重ねても走り続けるためには、どのような要素が必要だと思いますか?
ランニングというと、歩いてはいけない、途中で止まってはいけないというように、「〇〇しなければいけない」といった、苦しくて辛いという昔からの持久走のイメージを今も持っている方が多いかもしれません。
しかしながら、時々歩いてもいいし、きれいな花が咲いていたら立ち止まっても大丈夫。自由に楽しむことができるのがランニングなのです。「週に何日走らなければならない」「一度始めたら定期的に走り続けなければならない」といったことは考えなくてよく、楽な気持ちでランニングを始めればいいと思います。
1週間に一度でも足を外に向けた自分を褒めてあげるようなかたちで、走ることを生活の一部に取り入れるというスタンスで始めることが、年齢を重ねても走り続けるための基本だと思います。ランニングにおいて最も重要なキーワードは継続なので、週に一度でも二度でもいいので、気が向いたときに走るという習慣付けが大切です。
走ることによって、自分自身の身体に向き合うことができるメリットもあります。年齢を重ねると、どこかしらに痛みや身体の異変があっても不思議ではありません。走る際に手先や足先を始めとした身体の各部位に気持ちを巡らすことで、何か違和感があったときに気付きやすくなります。
病院に行く前に自分自身で身体を理解することが健康への第一歩。ランニングの際に自分の身体と向き合うことが、楽しく人生を送るために大切だと思います。
食事とランの美しい関係とは

――ゆっくりでも走ることはウォーキング以上に健康維持に効果的であると言われています。年齢を重ねても走り続けようとしているランナーにアドバイスはありますか?
ランニングというと、決められた距離を走り終えたら、それで終了と思われるかもしれませんが、走ったあとの筋肉痛も含めてランニングだと思います。まずケガをしないで継続して走るために、走る前後はしっかりと準備運動やストレッチをすることが大切です。
長距離を走る練習を続けていると、どうしてもフォームが小さくなりがちなので、可動域をしっかりと広げるエクササイズを行うことで、パフォーマンス向上のひとつのきっかけになると思います。また、着地時には体重の3倍ほどの衝撃が脚部にかかります。その衝撃に耐えるための筋肉を動かし、走る前に身体の細部を目覚めさせるための合図を送るようなエクササイズを行うことで、ケガの防止につながります。
走ったあとのストレッチや血液循環を高めるアイシングといったケアが疲労回復を早めるので、走るだけでなく前後の取り組みもしっかりと行なっていただきたいです。それが楽しく健康に走ることをより長く継続するためには不可欠だと思います。
さらに言えば、走るだけでなく、食べることと眠ることも重要です。私はマラソンの3大要素と呼んでおり、基本的な生活習慣を整えることで、よりパフォーマンスが上がると思います。ちなみに私が現在使っているポラールという時計は、走行データや心拍数の計測だけでなく、睡眠時間や眠りの質まで測定してくれるので、自分自身の健康状態を把握するのに本当に便利な存在となっています。
――普段、どのような食事を摂られていますか?
しっかりと食べて回復しないと、翌日から満足のいく練習ができないので、食事はランニングを継続するうえでとても重要です。
現役時代は基本的に朝と夜の2食で、間食に食パンやおにぎりを1~2個食べる程度でしたが、活動量が一般の方と比べて多いだけに、一度に食べる量もかなり多く、貧血対策としてひじきやレバーを毎食のように食べましたし、疲労回復のためにタンパク質を補給すべく、納豆も毎日4パック食べていました。食事の始めにメカブを食べることで、ねばりで胃腸を守ってくれる感覚があり、習慣にしていましたね。
現在は野菜や汁物中心の食事になり、自分で皮から肉まんを作り、それを朝ごはんとして食べることも多いです。現役時代と比較すると食べる量は減りましたが、長い距離を走る前はエネルギーとなる炭水化物を多めに摂る、走った後は回復のためにタンパク質を摂取するというように、走ることと食事を効率よくリンクさせるようにしています。
ランニングにとって食べることは本当に重要で、間違った食生活を続けると、生理不順や骨粗しょう症の原因となることもあります。
取材・文/南井正弘 写真/AFLO
人は何歳まで走れるのか? 不安なく一生RUNを楽しむヒント
南井 正弘

2023年1月26日発売
1,540円(税込)
四六判/160ページ
978-4-08-781728-7
年を重ねても楽しく走り続けるには?
スポーツシューズの進化を追いかけてきた男が、ヒントを探る旅に出た。
99歳現役ランナー、君原健二、金哲彦、高橋尚子、茂木健一郎、フル2時間30分の管理栄養士、ランニングドクターなど、先駆者やプロに、「加齢とRUNの気になる関係」を聞く!
スポーツシューズに関わって34年の著者が、これまで試したシューズは1000足以上。その比類なき知識と情報量でシューズの変遷と選び方を語る。レース愛好家、ファンランナー、これから走りたいビギナー、すべての中高年ランナーの背中を押す!
関連記事




日本一過酷な山岳レース「TJAR」の出場希望者は、なぜ増え続けているのか?


柏原竜二、大迫傑、服部勇馬、渡辺康幸…歴代スターで勝手に妄想!? 箱根駅伝、夢の区間オーダー
新着記事
『こち亀』界きっての凡人、寺井洋一!




韓国映画創世記の女性監督を探る心の旅を描く 『オマージュ』。シン・スウォン監督に聞く。

【暴力団組長の火葬】「おじきは強い男やったんや! そんな小さいしょうもない骨入れんな!」若頭の一言に一流葬場職人になるための試練が…(7)
最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常(7)

