5月28日、明治座で千秋楽を迎えた「市川猿之助奮闘歌舞伎公演」。主人公である市川猿之助は18日、両親とともに「自殺を図った」として緊急搬送。本人は一命をとりとめたものの、歌舞伎俳優で父親の市川段四郎さん(享年76)と母親の喜熨斗延子さん(享年75)は命を落とし、本人は現在、“事件”のあらましについて事情聴取を受ける身だ。
「事件直後入院していた猿之助さんは退院した後、再び都内の病院に入院している。
心配されているのは猿之助さんの精神面で、施設内は緊急時には24時間医師が駆けつけられる環境になっているが、これは万が一のときに備えての対処だと聞いている。
猿之助さんは24日に行われた事情聴取にも淡々と応じ、睡眠導入剤を飲んだ両親にビニール袋を被せたことやそのビニールを処理したことを認めており、罪に問われる可能性が高い。今後も聴取が行われる予定で、各社が注目している」(社会部記者)
“主人公不在”の明治座で、代役を務め、見事、名を上げたのは、猿之助のいとこである香川照之(56)の息子、市川團子だ。
「すでに猿之助を超えている」代役主演の市川團子の圧倒的存在感に観客感涙! 驚異の歌唱力の秘密は学生時代のバンド経験にあり? 一方、猿之助は警察の聴取で…
休演中の市川猿之助(47)の代役を見事に果たした市川團子(19)。多くの注目を集める中、歌舞伎界の新星は最終日の舞台でどんな芝居を見せたのか。團子の魅力の根源に迫る。いっぽう聴取が続く猿之助は…。
代役は團子と発表されるや、たちまち完売

明治座
179センチというモデルのようなスタイルと甘いマスクを持ち合わせる團子が歌舞伎デビューしたのは11年前の8歳のころ。
その後は、歌舞伎界で常にトップクラスの注目度を誇る澤瀉屋(おもだかや)のプリンスとして歌舞伎の勉強にいそしむ毎日だ。
そんな成長著しいホープが代役を務めたのは、昼の部『不死鳥よ 波濤を越えて-平家物語異聞-』の平知盛役だ。
当初、昼の部の売れゆきはそこまで芳しくはなかったのだが、事件後、團子が代役を務めることが発表となると即完売。
27日の最終日(※千秋楽は28日。この日は昼夜ともに花形公演として中村隼人(29)が代役を務める『御贔屓繋馬』を上演)には、当日券を求めて早朝から100人以上が明治座に列をつくった。
團子の驚異の歌唱力の秘密は?
「團子くんは、最後のほうこそ声が少し枯れてはいたものの、セリフや殺陣、ダンスなども完璧にこなし、最後のヤマ場である宙乗りでは、観客の視線を一身に集めていました。
その姿やセリフ回しなどが『三代目(市川猿之助、現猿翁)に似ている』と、古くからの観客も感動のあまり号泣していたほどです」(ベテラン演芸記者)
会場にはすすり泣く声が響き、その興奮は幕が下りてもおさまらず、7分ほどの長さにもわたって拍手が鳴りやまなかったという。
團子の“すごさ”はそれだけにとどまらない。彼が底なしのポテンシャルを見せたのは「歌」だったという。
前出の演芸記者が言う。
「この演目は、宝塚歌劇のレビュー(歌とダンスで構成された舞台)を取り入れたものなので、歌を披露するシーンがあるんです。
澤瀉屋では三代目の教えとして『代役もすぐにできなければいけない』というものがあり、普段から猿之助さんの稽古を熱心に観ていた團子くんだったら、歌舞伎の動きであればある程度までは出来るであろうことは予想できた。

子供時代の市川團子
しかし、「歌」に関しては、一朝一夕ではいかない。それを團子くんは、たった一日の稽古、しかも通し稽古もできないなかで見事仕上げてきたのです。
観客の中には『四代目(現市川猿之助)の舞台も観たけれど、歌ではすでに当代を超えた』という人もいたほどです」
その“驚異の歌唱力”はどのように育まれたのだろうか。
昔からの一家の知人が言う。
「團子ちゃんは幼い頃から踊りに加え、長唄や太鼓などの鳴り物も熱心に稽古していたからリズム感がある。それに高校在学中にはバンドを組み、文化祭でメインボーカルとして活躍するなど、もともと歌は得意だったんです」
事件前のインタビューで猿之助が下した團子評は?
團子が「猿之助」を継ぐことは既定路線とは言われている。だが、実のところ、そのハードルはまだ高い。
「時期を決めるのは松竹だというし、また、当代猿之助の許可がなければ五代目は継げない。猿之助さんは、事件前に受けた最後のインタビューで、『團子は若いし経験もまだまだ』という内容の発言をしていますし、猿之助さん自身がどうなるかまだまだ見えないところがある。
本人が予想もつかないところで、若くして注目を浴びてしまっただけに、今後團子くんにのしかかるプレッシャーは相当なものでしょう。
しかし、澤瀉屋のテーマは『天翔ける心』と『夢見る力』。三代目の孫である團子くんなら見事にこの“試練”も乗り越えていくのでは」(前出・演芸記者)

市川猿之助と父、四代目市川段四郎
團子が目標とするのはスーパー歌舞伎の創始者でもある市川猿翁。この波涛を超えられれば、偉大な存在に一歩近づくことができるはずだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班