アレルギーと聞いて、すぐに連想する疾患といえば何でしょうか。
おそらく大多数の人が、花粉によるアレルギー、花粉症と答えるに違いありません。毎年毎年春先になると、くしゃみ・鼻水・鼻づまり、目のかゆみ・充血、喉のかゆみといったお決まりの症状に悩まされているからです。
例えば、東京都内のスギ花粉症の推定有病率を見ると、1983〜1987(昭和58〜62)年度の第1回調査では10.0%でしたが、その後10年ごとの調査でも約10%ずつ増え続け、最新の2016(平成28)年度の第4回調査では48.8%と、ほぼ2人に1人がスギ花粉症にかかっている実態が明らかになっています(『花粉症患者実態調査報告書[平成28年度]』東京都福祉保健局、平成29年12月)。
花粉症は今や、日本人の国民病といってもいいかもしれません。
ところが、この花粉症と並んで患者数が想像以上に増え続けているのが、食品などの摂取によって起こる食物アレルギーです。
食物アレルギーというと子どもの疾患というイメージが強いのですが、成人の患者さんの数も少なくありません。特に近年は、病院のアレルギー科に来院する成人の食物アレルギーの患者さんが増えています。
今では、成人の食物アレルギーも「ありふれた病気(common disease)」となりつつあるといっても過言ではありません。
しかも、食物アレルギーは、とてもやっかいな疾患です。
というのも、食物アレルギーは、生命を維持するための生理的欲求の1つ、食欲に基づく行為によって症状が引き起こされてしまうからです。食物アレルギーを怖(おそ)れて、すべての食物摂取をやめてしまうというわけにはいかないのです。
何を食べていいのか、何を食べてはいけないのか、食べていいとしてもどのくらいの量だったら差し支えないのかをはっきりさせなければいけません。
原因となる食物も多岐にわたりますし、原因が1つとは限らず複数の場合もあります。食物アレルギーという名前でありながら、食物以外のものが合併して生じることもあります。
あらわれる症状もさまざまです。影響は皮膚や消化器、呼吸器など多様な臓器に及び、重症になれば意識を失い、死に至る場合もあります。
検査でも、その結果と症状が一致せず、診断の確定がむずかしく、治療に時間がかかってしまうこともあります。
また、成人の食物アレルギーを専門に研究したり診療したりする医師の数も少なく、裏付けとなるエビデンス(科学的根拠)も十分とはいえません。
こうしたさまざまな要因が関係する食物アレルギーは、医師にとって一筋縄ではいかない疾患なのです。

大人の食物アレルギーは国民的お悩みの花粉症が関係していた!?
食物アレルギーと聞くと、なんとなく子どもの卵や牛乳、小麦などアレルギーを思い浮かべがちだが、実は大人の食物アレルギーというのは少なくない。ある調査では成人の10人に1人に症状が出ていて、患者数が増加している傾向にあるという。食物アレルギーはときに深刻なアナフィラキシーを起こすことがあり、注意が必要だ。では、なぜ大人の食物アレルギーが発症するのか? 原因となりうる食物はどんなものがあるのか? 成人食物アレルギー研究・治療の第一人者である医師・福冨友馬氏の近著『大人の食物アレルギー』から一部抜粋・再構成しながら、注意点を探っていきたい。
増え続ける成人食物アレルギー
花粉症が食物アレルギーの原因を誘発!?
食物アレルギーは、言うまでもなく食物を摂取したことが原因で発症しますが、実は、食物以外にも、環境アレルゲンや、引き金となるさまざまな「二次的要因」が関与することがあります。二次的要因とは、発症に影響を与える要因という意味です。
ここでは、食物アレルギーの原因となる食物に絞って触れていきます。
アレルギーの原因となる物質をアレルゲンという
原因となる食物に含まれ、生体にアレルギー反応を引き起こす物質を「アレルゲン(Allergen)」といいます。免疫学では、「抗原」という言い方をします。
アレルゲンになり得るものの本体は、多くはアミノ酸が連なったたんぱく質です。はじめにアレルゲンが体内に侵入すると、それを排除するために、アミノ酸配列によって形づくられるアレルゲンの立体構造に合った形の抗体がつくり出されます。
それが、免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)と呼ばれるたんぱく質の一種で、働き方の違いによって、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、IgM抗体の5種類があります。
このうち、アレルギー症状を引き起こすのがIgE抗体で、IgE抗体価はその量、強さを示します。
IgE抗体は、決まったアレルゲン(抗原)にしかくっつかないため、正式には抗原特異的IgE抗体という言い方がされます。
例えば、アレルゲンがそばであれば、それにくっつくのはそば特異的IgE抗体、アレルゲンがピーナッツであればピーナッツ特異的IgE抗体、アレルゲンがダニであればダニ特異的IgE抗体ということです。
そのため、血液検査や皮膚テストによって、特定のアレルゲン(食物や食物以外の抗原)に対する特異的IgE抗体が存在するかどうか、つまり陽性であるかどうかを証明することが、その特定の食物や食物以外の抗原に対するアレルギーであるかどうかを判断する際に必要となります。
アレルゲンとして多いのは、果物・野菜・小麦・甲殻類の順
では、食物アレルギーの原因となる食物としては何が多いのでしょうか。
年齢別では、0歳までは、鶏卵、牛乳、小麦が上位を占めますが、年齢が上がるに従って、魚卵類、木の実類、果物類、甲殻類などの頻度が上昇し、18 歳以上の成人食物アレルギーでは、甲殻類、小麦、魚類が上位を占めています(表1)。
一方、図1は、私が勤務する相模原病院アレルギー科を2011〜2013(平成23〜25)年に受診した成人食物アレルギー患者さんの原因食物を示したものです。
その結果、果物・野菜(豆乳・大豆を含む)が最も頻度が高く、次に小麦、甲殻類と続きます。乳幼児の時の鶏卵や牛乳のアレルギーが改善せずに成人まで持ち越す例も少なくありませんが、その3年間にはありませんでした。
また、乳幼児は多くの場合、1人の患者さんが鶏卵、牛乳、小麦など複数の食物のアレ
ルギーを合併しますが、成人は、さまざまなアレルゲンが合併して発症するのは比較的少ないのが特徴です。OASは口腔アレルギー症候群、FDEIAは食物依存性運動誘発アナフィラキシーを意味します。

表1 『大人の食物アレルギー』より抜粋

図1 『大人の食物アレルギー』より抜粋
●果物
成人になって食物アレルギーを発症する原因として最も多いのが、果物です。
果物を食べてアレルギー症状が出るとは容易に想像しがたいかもしれませんが、成人になってから果物アレルギーを発症する人は、ほとんどが花粉アレルギーも持っています。
果物には花粉アレルギーのアレルゲンと構造が似たアレルゲンが存在します。そのため、花粉アレルギーを発症した人の一部が、果物に含まれるアレルゲンと交差反応を起こして果物アレルギーを発症してしまう場合があります。成人に花粉アレルギーが多ければ、必然的に成人の果物アレルギーも多くなるというわけです。
花粉アレルギーの人が果物を食べたことで食物アレルギー症状が生じる病態を、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergysyndrome)といいます。
では、どの花粉アレルギーの人がどの果物を食べると交差反応を起こしやすいのでしょうか。それを示したのが、表2です。
例えば、カバノキ科(シラカンバ、ハンノキ)の花粉アレルギーの主なアレルゲンは、PR-10というたんぱく質です。花粉のPR-10と構造がよく似ているアレルゲンは、バラ科のリンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、イチゴ、プラム、セリ科のニンジンやセロリにも存在します。そのため、カバノキ科花粉アレルギーの成人がこうした生の果物・野菜を摂取した時に交差反応が生じ、口唇や咽頭粘膜にかゆみや腫れなどの食物アレルギーの症状を引き起こしてしまうケースがよくあります。
交差反応に関与するアレルゲンのうち、PR-10とプロフィリンは熱や消化酵素に対しては不安定(壊れやすい)なので、加熱した食品には反応しないことが多いようです。
しかし、GRPというアレルゲンは熱や消化酵素に安定(壊れにくい)で、加熱した食
品などでも反応します。また、バラ科や柑橘(かんきつ)系の果物で症状を起こすことが多く、症状としては眼瞼腫脹(瞼やその周辺部が腫れあがる)や、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)といった比較的重篤な果物アレルギー症状も引き起こしやすくなります。

表2 『大人の食物アレルギー』より抜粋
この表2を見れば、交差反応によるアレルギーを発症しないために、どの花粉アレルギーの人はどのような果物・野菜を摂取しないほうがいいかが分かります。ところが、花粉-食物アレルギー症候群であっても、同じ果物を食べても、あるいは同じ人であっても、食物アレルギーの症状が出る時と出ない時があります。
その要因として、反応しやすい果物が人によって違う、果物の銘柄、産地、熟度、部位によってアレルゲンの含有濃度が異なる、季節によって果物に対する感受性が変動するなどが挙げられます。例えば、花粉が多く飛散する季節になれば果物アレルゲンに対してより過敏になり、食物アレルギーの症状が出やすくなるというわけです。
花粉-食物アレルギー症候群の人は、アレルギー発症の原因となる個々の花粉が飛散する時期には特に、症状が出やすい果物の摂取を控えることが大切です。
また、果物アレルギーの発症原因は、花粉アレルギーだけではありません。ラテックスと呼ばれる天然ゴムの手袋を使ってラテックスアレルギーを発症した人が、果物を食べて食物アレルギーを発症する場合があります。これは、ラテックス-フルーツ症候群と呼ばれています。
特に、オレンジ、キウイ、バナナ、モモ、リンゴの5品目は、アレルギーを発症することが多い果物として、食品表示法において可能な限り表示することが推奨された表示推奨品目(特定原材料に準ずるもの)に指定されています。

アレルギーは皮膚に出やすいもの(写真はイメージ)
構成/百田なつき

2022年3月17日
880円
新書判 200ページ
978-4-08-721209-9
成人の10人に1人に症状あり!
これ一冊ですべてがわかる初めての解説書。
もしかして自分も……? と思ったら、以下をチェック!
□花粉症である
□自分または肉親がアレルギー体質である
□子どもの頃にアレルギーがあった
□食生活が乱れてor偏っている
□過度のきれい好きである
□最近、日光を浴びていない
□調理業や食品加工業など食物を扱う仕事をしている
□料理などで食材に触れると手がかゆくなる
ひとつでも 当てはまる場合は、成人食物アレルギーの発症リスクあり!