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セックスは「才能」ではない

アダルトビデオで数多くのセクシー女優と共演するベテラン男優は、何百人、何千人もの女性とセックスするなかで、「このタイプの女性なら、おそらくこういう体位がいいだろう」といったふうに観察力、洞察力、想像力を磨き、実践に生かしているはずです。

しかし、多くの経験を積むことができるプロと私たちでは、事情が異なります。普通の人にとって、セックスで「百戦」することは容易ではありません。人によっては「十戦」、いや「一戦」しか経験がないかもしれません。

そこで重要となるのが、やはり「型」なのです。本来ならば実践を通じて得られる洞察力と想像力を、「型」を学んで身につけるわけです。

ただし、セックスは武道やスポーツとは違い、師匠やコーチに教わったり、練習することができません。ですから、多くの場合はアダルトビデオなどを見て、そのまねから始めることになります。

とはいえ、必ずしもその手本が正しい道筋とは限りません。なかには、しっかりと型を学んだ熟練の男優だからこそできる型破りな手技や愛撫をまねて、自分もできたと勘違いしてしまう人がいます。型が身につく前に型破りをまねたところで、それは形なしでしかありませんし、相手から「ただのがさつで乱暴な人」とみなされるでしょう。

熟年の“愛の作法”は「60歳で諦めるのではなく、60歳からいよいよ集大成となる」…女医が教える「中高年の性」を最高にする「型」の存在_1
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最高のセックスに至る「セックス道」の身につけ方

では、私たちは何を手本に型を学べばいいのでしょう?

それはまず第一に、医学的データに基づいた知識です。特にセックスの分野では、個人の経験を基にした、さまざまな言説がインターネットを中心に数多く見受けられます。そのなかには、非科学的で怪しげな言説も少なくありません。しかし、性の悩みはプライバシーや尊厳にかかわるデリケートなものなので、誰にも相談できず一人で抱え込んでしまい、最終的に信憑性に欠ける高額な情報商材などをつかまされてしまうこともあります。

だからこそ、まずは医学的な知識を学ぶこと、特に物事の「平均値」を知ることが大切です。たとえば、身長や体重に平均値があるように、性やセックスにおいても平均値を知ることで、自分が今、どういう状態なのかを客観視できるからです。

もしもEDで悩んでいるのなら、「EDは60代の日本人男性なら2人に1人が発症しており、その原因にはどういったものがあるのか」といったデータを知れば、打開策も考えられます。また、性交痛に悩んでいるのなら、「日本人の何%が何歳から、どの程度の性交痛を感じているのか?」といったデータに積極的に触れていきましょう。信頼できる医学的データに触れることで、コンプレックスを煽るだけの偽情報や悪質な広告に惑わされなくなります。なかには、第三章でお話ししたように、「お前のアソコ、臭いな」などとコンプレックスを刺激して相手を支配しようとする人もいるので、そうした悪意の呪縛から自由になるためにも、正しい知識を身につけることが有効です。

なにも、これまでの人生で培ってきたオレ流セックスをすべて否定するわけではありません。そこにこだわる前に、まずはもう一度、基盤となる型を学ぶ。正しい知識やデータに触れる。その上で、自分なりの経験を加えてアレンジし、型破りを目指すべきです。健康寿命が70歳を超えた今、60歳はまだ発展途上といえます。慢心することなく型を身につければ、それが自信となって目の前の相手に集中できる―これこそが、60代からの「セックス道」です。

では、具体的にどういったことが必要なのでしょうか?その説明に入る前に、セックス道における「心得」をお話しします。