「離婚のショックで、本当は出たくなかったんです」キングオブコント2022で結婚式ネタをやりきったネルソンズ・和田の芸人魂
ここ数年で「大会のレベルが飛躍的に上がった」と言われるキングオブコント。2022年のファイナリストたちの貴重な証言から、その舞台裏を浮き彫りにしていくシリーズ連載。今回は準々決勝直前にメンバーの和田まんじゅうが離婚していたというネルソンズ。彼はどんな思いで“結婚式ネタ”に臨んだのか?
ネルソンズインタビュー♯1
結婚式の二次会に昔の恋人が…

ネルソンズ。吉本東京所属。2010年結成。青山フォール勝ち(中央)、和田まんじゅう(左)、岸健之助(右)はともにNSC東京校14期生出身
——今回のネタは、往年の名作映画『卒業』を彷彿とさせるような、花嫁を、かつての恋人が奪いに来るという内容のものでした。あのネタは何と呼べばいいですか。
青山 いちおう『結婚式』ですね。4、5年前ぐらいに作ったネタで、もともとは二次会じゃなくて結婚式の舞台設定だったんです。結婚式の場に、昔の恋人が現れるという。ただ、その設定だと、ウエディングドレスを用意するのが大変で。一度だけ単独ライブで用意してもらったことがあったんですけど。
和田 レンタルでな。
青山 でも毎回は大変なんで。だから、ずっとやっていなかったんです。それで今回、なかなかいいネタができなくて、過去のネタを見返していて。あ、これを二次会の設定に変えればできるんじゃないかな、と。二次会ならそこまで着飾らなくても済むじゃないですか。そうしたら、二次会だぞっていうところがめっちゃウケたんですよ。
――あそこでドッと湧きますよね。あらゆる準備をしてきた上で、かつての恋人を奪いにきた恋敵に対し、花婿役の和田さんが「なのに、なんで今、来んだよ。今、二次会だぞ」と言うところですよね。
青山 怪我の功名ですね。ウエディングドレスを用意できないから二次会に設定を変更したら、それがたまたまハマった。
――二次会という設定以外にも、かなり変更したのですか。
青山 入りだけは一緒で、中味はほとんど変えました。音楽とかもほとんど使っていなかったですし。僕らは原則、音楽は使わないんです。面倒くさいというのもあるんですけど、音響設備が整っていない場所だとできないというデメリットがあるので。なので、今回はそこがいちばん難しかったかな。どのタイミングで音楽を流すか、とか。
和田は離婚のショックで仕事を休んでいた

――花嫁と、かつての恋人がいい雰囲気になると、ピアノの甘いメロディが流れ始めるんですよね。選曲も悩みましたか。
青山 選曲は割とすんなり決まったかな。
岸 ちょっと『戦場のメリークリスマス』風なんだよな。
青山 でも、少し違っていて、その感じがちょっと気持ち悪い。
——確かに『戦場のメリークリスマス』っぽいですよね。
岸 (著作権)フリー音源なんです。結局、それじゃないと使えないんで。なので、そもそも選択肢もそんなにない。
青山 著作権ありの音楽でも使えないことはないんですけど、配信ライブとかだと権利上の関係で使えなくなっちゃうんで。フリー音源の方が何かと楽なんです。
――決勝でネタを終えた後、少し触れていましたが、和田さんは離婚されたばかりで、本当はこのネタをやりたくなかったとか。
和田 あれは本当です。やりたくなかった。
岸 準々決勝の一週間前ぐらいだよな、正式には。離婚決定直後はめちゃくちゃナーバスになってたもんな。
和田 精神的にキツくて、キングオブコントももう出たくなかった。
青山 ショックで、何日か仕事を休んでたもんな。
——その事実を知ってから見直すと、和田さんの演技がより胸に迫ってきます。
青山 ある種のドキュメンタリーですからね。

「キングオブコント2022」のネタ後のトークで離婚していたことが明らかにされた和田まんじゅう
――花嫁が奪われそうになるんだけど奪われずに済んで、和田さんが何度か「よかったぁ……」って呟くシーンがあったじゃないですか。あれが心底、よかったんだなと思わせてくれるんですよね。凝った言葉ではないぶん心に響きます。
和田 僕、シンプルな言葉じゃないと言えないんですよ。難しい言葉を知らないんで。
本番でのまさかのハプニング

青山フォール勝ち。高校生時代レスリングで国体準優勝、大学生時代には天皇杯でベスト8に入ったことがある。和田まんじゅうとは中学の同級生で、レスリング部で一緒だった
――あと、決勝のときは、新郎役の和田さんの衣装が結婚式のとき並みにゴージャスで。あれはあれで一生懸命感がより出て、グッときました。
和田 あれはTBSが用意してくれたんです。豪華な方が説得力が出ますよね。
青山 確かに和田の衣装はよかったな。
――テーブルの上の花も立派で、あのネタは派手なところは派手な方が、起きている悲劇とのギャップが出て、おもしろいですよね。
青山 あの花もリクエストして用意してもらったんです。ただ、僕の衣装は失敗しましたね。衣装が悪かったというよりは、完全に僕のミスなんですけど。
――そんなミスがあったのですか。
青山 (ズボンの)ポケットから指輪がなかなか出てこなかったんです。
——昔の恋人を奪いにきた青山さんが、花嫁役の岸さんに、指輪を差し出すシーンですよね。もったいぶっているというか、わざと時間をかけているのかなと思ってしまいました。
青山 あれも用意してもらった衣装なんですけど、ポケットを浅くしといてもらったんで、取りだしにくいことはないだろうと思っていたんですけどね。前日のリハーサルのときに試しに一度、取り出してはいたんですけど、実際の舞台では試してなかったんです。決勝当日、ルミネ(新宿・ルミネtheよしもと)で2ステージこなしてからスタジオ入りしていたので、そのときに試しておけばよかった。
――浅いのに、出しにくくなってしまったのですか。
青山 ポケットの形状が違ったせいで、パッと掴めなかったんです。瞬間、「あれ? 入ってない」と思ってしまって。時間が止まりましたね。「終わった……」と。
岸 体感で30分ぐらい待ったよ。

岸健之助。NSC時代から2009年まで活動していた青山と和田のコンビに後から合流し、トリオとして活動スタート
青山 決勝の後、一度も映像を見直していなかったんです。ただ、(キングオブコントの)ドキュメンタリーは観ておこうと思って。そうしたら、その中でミスしたシーンが使われていたんです。「うわ、遅っ」って。それを見た瞬間、消しちゃいました。観ていられなくて。完全にトラウマになってますね。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾