早朝の始発電車で、放課後のファミレスで、観覧車の中で……日常の風景が一瞬にして変化し、展開される高校生たちの“5つ”の密室会話劇を描いた青崎有吾の小説『早朝始発の殺風景』(集英社文庫)がWOWOWにて連続ドラマ化。
物語の主人公・殺風景役と加藤木役を演じた山田杏奈と奥平大兼は、ほぼ全編ふたり芝居で、青春がもたらす気まずさや不安定な人間模様をみごとに演じきった。

山田杏奈と奥平大兼が“早朝始発電車”でふたりきり。密室ならではの気まずい会話を楽しんだ
『WOWOWオリジナルドラマ 早朝始発の殺風景』(全6話)が11月4日(金)午後11:30放送・配信スタート。W主演の山田杏奈、奥平大兼に撮影の裏話や自身の“青春”を振り返ってもらった。
予想外のセリフがあるからいいお芝居になった
――原作は、ミステリーにおける論理展開の緻密さから“平成のエラリー・クイーン”と評価される青崎有吾氏の小説です。そんな1冊をもとに書かれた脚本を最初に読まれたときの感想をお聞かせください。
奥平 僕はどの作品の脚本も1回目は普通に本を読む感覚で目を通すんですけど、セリフのかけ合いがおもしろいなと思いました。
そのあと自分が演じる役を意識しながら読むと、日常ではなかなか体験できないシーンが目にとまって、「ここはどんなふうに撮影するんだろう?」って、ひとりで想像していましたね。
殺風景をはじめ、自分以外の役をみなさんがどう演じられるのかもすごく楽しみになりました。
山田 私は会話劇の中でひとつの真実が見えてくるお話がすごく好きなので、楽しく読ませていただきました。
「青春はきっと、気まずさでできた密室だ。」というセリフがたびたび出てくるんですが、その言葉通り脚本の中にも気まずい時間がずっと流れていて、これが映像になったときに役者のみなさんはどう表現するんだろうってワクワクしたことを覚えています。

――殺風景と加藤木を演じる上でヒントになったものがあれば教えてください。
山田 この作品にかぎらず、小説って登場人物の心情が事細かに書かれているものが多いので、お芝居をするときヒントになることがあるんです。
今回もそれがすべてではないですけど、原作の小説をしっかり読ませてもらって参考にして演じた部分はありました。
奥平 僕はいちばん最初にお芝居を教えてもらったとき、監督に「何も考えてくるな」って言われたんです。そのやり方は今でも貫いていて、だから今回も自分のセリフは暗記するけど、脚本に書かれた相手のセリフや出番がないシーンはできるだけ見ないようにしていました。
現場で初めてセリフを聞くことで、「こう言われたから自分は次にあのセリフを言うんだ」って腑に落ちて、わりと何も考えなくてもナチュラルにお芝居ができるんです。
山田 相手のセリフを見すぎないっていうのは、私もよくわかります。段取り(本番前に行われるリハーサル)のときに相手のセリフはあやふやなままお芝居して、そこで感じた「あ、私の役はこう思うんだ」っていうのがヒントになったりするので。
奥平 特に殺風景は予想外のことを言ってくることが多かったから、知らなくてよかったなって思いましたね。
山田 たしかに。奥平くんが毎回フレッシュな反応をしてくれたおかげで、ふたりですごくいいお芝居ができたという感覚がありました。

明暗くっきり分かれた“早朝始発”に対するイメージ

――第一話は、実際に動いている電車の中で殺風景と加藤木の会話劇が繰り広げられていきます。撮影を振り返って印象に残っているできごとはありますか?
山田 トイレに行けるのが決まった駅で停車したわずかな時間だけだったので、お水をあまり飲まないようにしていました。それは大変でしたね。
奥平 そうだった! なのに、その日にかぎって僕が現場に差し入れしたものが、水を飲みながら食べたいものだったよね(笑)。
山田 いや、でもちゃんと食べる時間がなかったから、めちゃくちゃありがたかったよ。最低限のお水でおいしくいただきました(笑)。

――ちなみに、おふたりの“早朝始発”にまつわるエピソードといえば?
山田 私は始発、苦手です。眠いし、朝帰りの人も乗っているじゃないですか。「こっちはこれから仕事なのになぁ」って思っちゃいます。
奥平 たしかになぁ。
山田 特に京葉線! ディズニーに向かう人たちであふれている中、自分は仕事に行かなきゃいけない時とか、うらやましくなるんですよね。
奥平 僕も始発は仕事のときしか乗らないけど、けっこう好きかも。でも、始発って席をふたり分使って座っている人の率が高い気がするんですよね。さっきまでお酒を飲んでいたんだろうなっていう人が、さらにとなりにバッグを置いていたりして。
山田 いるいる(笑)!
奥平 そのバッグをどけてくれたら座れるのになって思うけど、そんなこと口に出す勇気はないので、ただ見ているだけです(笑)。
“あいさつのタイミング”が気まずさの極み
――今作で高校生役を演じられたおふたりですが、実際の学生時代はどんな生徒でしたか?
奥平 中学生のころは部活をやっていたし、青春っぽいこともしていたかなと思います。性格的にもわりと「ウェーイ!」っていう感じだったんですけど、高校に入ってからわりとスンってなっちゃって。
騒ぐ体力がなくなっちゃったのかも(笑)。もともと人と深く仲よくなることが得意じゃないので、そういうところは加藤木くんに似ているんじゃないかなって思います。

山田 私は中学生のときから仕事をしていたのでわりと冷めた側にいたと思っていたんですけど、今日取材で昔のことを振り返っているうちに、わりと学校生活を楽しんでいたことを思い出しました。レクリエーションタイムに、みんなで宅配ピザを注文して教室で食べたり。

奥平 え~、楽しそう! いいな~、僕も学校でピザ食べたかったな。
――ドラマでは、「あるある!」とうなずきたくなるような日常にあふれる気まずいシチュエーションがリアルに描かれています。最後に、おふたりが気まずさを感じがちな瞬間について教えてください。
山田 よくあるのが、撮影が終わってスタッフさんたちがエレベーターまで見送ってくれて、「お疲れ様でした! 失礼します」って言ったあと、なかなかトビラが閉まらないとき。
奥平 ある~(笑)!
山田 おたがいに「あっ……」てなる。あれは気まずい(笑)。
奥平 僕がけっこうニガテなのは、現場で初めてお会いした共演者の方にあいさつするタイミング。
山田 わかる!
奥平 たとえば自分があとから現場に入って、その方が先にメイクされていると、メイク中に話しかけるのはどうなんだろうって思っちゃうんです。でも、時間がたてばたつほどタイミングがわかんなくなっちゃって……。
山田 そこを逃すと、段取りのあとになっちゃうじゃん。
奥平 そう。段取り中に「こいつ、あいさつしてきてないな」って思われたくないし、なんならする気満々だし。そのタイミングの難しさは、こっちが一方的に気まずいかなと思いますね。
山田 私は、メイク中にあいさつしちゃうようにしている。「メイク中にすみません、よろしくお願いします」って言って。でも、たしかに気まずいし、正解はいまだにわかんないですけど。
奥平 タイミングが大事だよね。僕も今度からそうしてみます!
取材・文/吉川由希子 撮影/井上たろう スタイリスト/中井彩乃(山田杏奈)、伊藤省吾(sitor)(奥平大兼) ヘアメイク/菅長ふみ(山田杏奈)、速水昭仁(奥平大兼)
『WOWOWオリジナルドラマ 早朝始発の殺風景』(全6話)
身近でありきたりな日常から非日常へと突如変化させるひと言、腹の中を探り合うような心理戦。会話劇によって解き明かされていく真相と、息苦しさからの解放。脆くて青い人間模様を密室での特異なシチュエーションで描いた新感覚・青春ミステリードラマ。おたがい話したこともないクラスメイトの殺風景(山田杏奈)と加藤木(奥平大兼)が、なぜか早朝始発の列車で遭遇する。早朝始発にわざわざ乗る理由は? それぞれの思惑は一体どこにある——? 男女の高校生がガラガラの車内で、小さな謎の探り合いの会話を交わす。
11月4日(金)午後11:30放送・配信スタート
WOWOWプライムにて毎週金曜 午後11:30~放送
WOWOWオンデマンドでは、
11/4(金)の放送終了後に第4話まで、12/2(金)の放送終了後に最終話まで一挙配信
https://www.wowow.co.jp/drama/original/sappu-kei/
山田杏奈/やまだあんな
2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年、『ちゃおガール2011☆』オーディションでグランプリを受賞。2013年に女優デビューをはたし、以降は数々の話題作に出演。2022年は映画『HOMESTAY』、ドラマ『未来への10カウント』、『新・信長公記〜クラスメイトは戦国武将〜』ほかに出演。映画『山女』が2023年公開予定。
奥平大兼/おくだいらだいけん
2003年9月20日生まれ、東京都出身。2020年に映画『MOTHER マザー』で俳優デビューし、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数多くの新人賞を受賞。同年に『恋する母たち』で連続ドラマに初出演。映画『あつい胸さわぎ』が2023年1月27日、映画『君は放課後インソムニア』、映画『ヴィレッジ』も2023年公開予定。
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