長引くコロナ禍、家で過ごす時間も増えNetflixなどの配信サービスからサジェストされて見てきた映画作品は数知れない。
今回はその中でも印象的だった『アメリ』(2001)をご紹介。
日本では2001年11月に公開されたこの作品。先月末、惜しまれながらも閉館した大阪のミニシアター「テアトル梅田」では、32年間の歴史で2番目の興行成績を残しているフランス映画の名作だ。
不器用な人間を丸ごと肯定してくれる。フランスの大ヒット映画『アメリ』が今なお色褪せない理由
本業の落語のみならず、映画や音楽など幅広いカルチャーに造詣が深い21歳の落語家・桂枝之進。自身が生まれる前に公開された2001年以前の作品を“クラシック映画”と位置づけ、Z世代の視点で新たな魅力を掘り起こす。
Z世代の落語家・桂枝之進のクラシック映画噺⑦
登場人物の誰もが不器用で人間らしい『アメリ』

©Album/アフロ
主人公は父親に心臓病だと誤診され、家から出してもらえず育ったアメリ(オドレイ・トトゥ)。大人になってからはカフェでウエイトレスをしながら、ひとりで暮らし、空想の世界にこもって生きていたものの、ある日、バスルームのタイルの中からこの部屋の前の住人だった男の子の「宝物箱」を見つけ、持ち主へ届けるべく戦略を立てる。
さながら探偵のように聞き込み調査をしながら持ち主を見つけ出し、電話ボックスを使ってさりげなく届けることに成功する。
人を幸せにして「初めて世界と調和が取れた気がした」と喜びを覚えたアメリは、徐々に外の世界との関わり方を見つけ出してゆく。ここまでで冒頭30分なのだが、既に2時間の映画が完結したかのような見応えのある展開だ。
その後は水を得た魚の如く人との関わりを持ち出すアメリ。
街中で目の見えない老人に道案内の傍ら目の前の景色を詳細に伝えるシーンがあるのだが、それまで単調だったアメリの人生にも色彩がついた瞬間のように見てとれる。
そんなある日、アメリは証明写真機で捨てられた写真を収集し、スクラップする趣味を持つニノ(マチュー・カソヴィッツ)に一目惚れする。なんとかニノに好意を伝えたいアメリだが、なかなかストレートに想いを伝えることが出来ないまま、ちぐはぐな関係が続いてしまう。
そして最後は……。
好きなこと・嫌いなことで浮かび上がる個性
登場人物の誰もが、不器用で人間らしい一面を持っているこの作品。複雑なキャラクターを描くため、それぞれの好きなこと・嫌いなことを描写する手法が用いられている。
例えばアメリの好きなことは豆の袋にこっそり手を突っ込むこと、クリームブリュレのお焦げをスプーンで割ること、嫌いなことは昔のアメリカ映画に出てくるわき見運転シーン、などといった具合。
些細なことだが、その人物との距離が一気に近くなったような錯覚を覚える。
この作品は、監督のジャン=ピエール・ジュネが1989年に製作した短編『ぼくの好きなこと、嫌いなこと』を基にしているのだが、感覚的な行動の描写に思わずウンウンと共感してしまった。
そして丁寧なのはキャラクターメイキングだけではない。
柔らかさや暖かさを感じさせる照明の色味や、赤と緑の計算されたコントラストなど、美的感覚に対する強いこだわりを感じるのはさすがフランス映画らしいポイントだ。
アメリの人生が走り出してから次第に周りはアメリ色に染められ、見ているこっちまでどんどんと温かい気持ちに包まれる素敵な映画体験だった。
人々の生きづらさを肯定するメッセージも含まれている本作。現在も多くの人がこの作品に出会い、ファンになっている背景には、そのメッセージ性が時代を越え、マイノリティを感じている今の人にまで伝播しているからではないだろうか。
文/桂枝之進
『アメリ』(2001)Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain 上映時間:2時間2分/フランス
フランス本国はもちろん、日本でも記録的な大ヒットを記録した、ジャン=ピエール・ジュネ監督のロマンティック・コメディ。空想好きの女性アメリ(オドレイ・トトゥ)は、他人を幸せにする喜びに目覚め、人々に様々なおせっかいを始めていく……。
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