幽霊にも支えられて30年

稲川淳二「怪談ナイト」30年。“元祖リアクション芸人”はなぜ怪談をはじめたのか?_1

――稲川さんが日本全国をめぐる怪談ライブ〝稲川淳二の怪談ナイト〟が今年で30年目を迎え、現在、全国公演の真っ最中ですね。

今年は途中で私がコロナになっちゃったりして、いくつか公演を中止してしまい、楽しみにして下さっていた皆様には、大変な迷惑とご心配をおかけしました。心よりお詫び申し上げます。

幸い軽症だったので、こうしてまた再開させていただいているわけですが、30年も続けられたのは、私が〝マブダチ〟と呼んでるファンのみなさん、スタッフや関係者たちのおかげ。

怪談って、スゴいですよ。30年間の怪談ツアーで911回公演をしたんだけど、音響さんも照明さんも、スタッフの失敗がたったの一度もないんだから。

――911回で1回のミスもなかったんですか?

そう。なんでか、っていうと、ミスがあっても幽霊のせいにしちゃうから。「霊が勝手に動かした」とか「私じゃない、幽霊がやらせたんだ」とか、すべて怪異のせいにする。

失敗しても「あぁ、ホントだ、霊の仕業だ。怖いね」で終わっちゃう。だから、幽霊もふくめたみんなに支えられて、30年も続けられたんですよ(笑)。

でも、改めて振り返ってみると30年って長いですよ。最初のころにお母さんに連れられてきていた女の子が、今度は自分がお母さんになって、小さな子どもを抱っこしてきてくれるんだ。

それに、私の怪談ナイトで出会って結婚したカップルが5組。怪談を聞くと、みんな自分でも話したくなるみたいでね。イベントが終わったあと、それぞれが会場近くの居酒屋に行くらしい。

そして同じチラシを持っている同士が、「今日のあの怪談がよかった」「あの話が怖かった」って話すうち、意気投合する。私は常々、言っているんですよ。怪談は、人と人とをつなぐ力があるって。

――どういうことでしょうか?

日本人なら誰でも一度は怪談を話したり、聞いたりした経験があるでしょう。どんなときに怪談をしたか思い出してみてくださいよ。時間を持て余した放課後に「実は、オレこんな不思議な体験したんだけど聞いてくれ」とか、修学旅行で寝る前に「怖い話でもしようか」って、車座になって怪談がはじまる。

プロの噺家が高座で話す落語や講談とは違って、怪談は素朴な娯楽。だから私にもできるんです。落語や講談はできないけどね。

――いつでも誰でも参加できる敷居の低さも怪談の魅力だと。

うん、私自身と怪談の出合いを振り返ってみてもそう。私のオフクロはとても話が上手な人でね。夏休みになると、私の家に遊びにきた近所の子どもたちに「カランコロン」「ギー」……って、擬音を交えた怪談を語ってくれた。みんな「きゃー」って大喜び。テレビもない時代だったから、オフクロの怪談が数少ない娯楽だったんです。