1992年9月、石川県の水泳インストラクター・安實千穂さん(当時20歳)が、スクールの駐車場で遺体となって発見される。希少植物「メタセコイヤ」が髪に挟まっていたことから、すぐに犯行現場は特定。事件は早期解決されると思われたが、なぜか犯人逮捕に至らず、15年後に時効が成立した——。

当時、捜査を担当していた西村とら男は、ある日、メタセコイヤについて調べている女子大生・梶かや子と出会う。とら男の話を聞いて事件に興味を持ったかや子は、とら男の家に「再捜査本部」を設置。捜査のイロハを教わりながら、徐々に事件の真相に近づいていく……。

主人公の「とら男」を演じた西村虎男さんは、1950年生まれの72歳。子どもの頃から体が弱く、一時はデザイナーを夢見ていたが、高校時代に警察の説明会に参加して警察官の道に。21歳のとき、交番勤務での仕事ぶりが認められて異例のスピードで刑事になった。そして42歳のときに発生したのが、「金沢女性スイミングコーチ殺人事件」。特捜係長の立場で捜査に当たった。

「我が警察人生に悔いあり」未解決事件題材の映画に主演した元刑事の思い_1
『とら男』主演を務めた元刑事の西村虎男さん

「係長とはいっても階級は警部補。捜査本部100名体制のコマの一人でした。当時、一部の捜査幹部によって、あらかじめ犯人を決めつけて捜査する“見込み捜査”が行われた。本来なら対象が絶対漏れないようにやるべきなのに、おおっぴらな見込み捜査が展開されて、世の中に『あの人が犯人だ』という噂が広まったんですよ」(虎男さん)

犯人逮捕に至らず、虎男さんは1年後に別事件の担当に。それから10年後、警部に昇進した虎男さんは、特捜班長という立場で再度この事件に取り組んだ。

「犯人にたどり着けなかったのは、警察がどこかでミスをしているから。そう考えて、大型キャビネット7個分ある捜査記録をパソコンに打ち込みながら、報告書の矛盾点を探す作業をやりました。それによって10年間不明とされてきた凶器が、被害者のオーバーオールの肩ベルトだとわかり、『アリバイあり』と捜査対象から落とされた人のアリバイの取り方もおかしいことがわかった。すべての状況が示すのは、明らかに被害者と面識がある人物の犯行。自分なりに犯人の目星をつけて捜査していたものの、人事異動で捜査に手も足も口も出せない、留置管理部門にいってしまった」