ウォン・カーウァイ監督の原点

優しい男ではなく、どうしようもない男がモテる現実…ウォン・カーウァイ監督が『欲望の翼』で描いた、ファンタジーの中のリアル_1
左からレスリー・チャン演じるヨディと、マギー・チャン演じるスー
Collection Christophel/アフロ
すべての画像を見る

昔の作品でも見たことがなければ新作映画!
一周まわって新しく映った作品の数々をピックアップする「桂枝之進のクラシック映画噺」、今回は『欲望の翼』(1990)をご紹介。

主人公のヨディ(レスリー・チャン)は、香港でナイトクラブを営む養母レベッカ(レベッカ・パン)のスネをかじりながら自堕落な生活を送っている。
サッカー場で売り子をしているスー(マギー・チャン)や、レベッカの店でダンサーをしているミミ(カリーナ・ラウ)に言い寄っては、まだ見ぬ生母や心の拠り所を探しながら空虚な感情を抱える毎日。

そんなヨディが口にするのは、テネシー・ウィリアムスの「地獄のオルフェウス」に出てくる一節。

“脚のない鳥がいるらしい。
脚のない鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠り、
そして生涯でただ一度地面に降りる。
それが最期の時”

キザに構えるヨディだが、次第に周囲との波長も合わなくなり、生母がいるというフィリピンへ向かうが……。

映画が公開されたのは1990年だが、舞台とされているのは1960年の香港。
緑がかったノスタルジックな映像美やウィリアム・チャンによるクラシカルな美術の風格は、アート映画と評されるほど蠱惑(こわく)的な魅力がある。
現代の日本で言うところの80年代に対する懐古性のようなものなのか。当時の若者の心を掴み、レスリー・チャンの没後20年となる現在に至るまで、度々リバイバル上映が企画されている。