幼い頃に家族で故郷を離れて来日し、埼玉県に住むクルド人の女子高生・サーリャ。教師になることを夢見ていたが、難民申請が不認定となり、生活が一変。大学進学も働くこともできず、県境をまたいで東京の友達と自由に会うことも許されなくなる。彼女が日本にいたいと思うことは「罪」なのか……。

戦争や迫害などの理由から、国外に逃れる避難民。現在、日本にもウクライナからの入国者が増加しているが、避難民はこの国でどのような生活を送り、どんな問題に直面しているのか。それを知るきっかけを与えてくれる映画が『マイスモールランド』だ。

気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_1
気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_2

「自分の国を日本って言っていいのかな?」の問いかけ

監督は、是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」に在籍する川和田恵真。是枝監督の『三度目の殺人』(2017年)や西川美和監督の『すばらしき世界』(2021年)などの現場で研鑽を積み、本作で商業映画デビューを飾る。

「私は2015年まで、クルドのこともよく知りませんでした。あるとき、銃を持ってイスラム国と戦うクルド人女性の写真を見て、驚いて。調べると、クルド人には国がない。だから自分たちの居場所は、自分たちで守らなきゃいけないんだと知りました」

気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_3
インタビューに応じる川和田恵真監督

現在のトルコ、シリア、イラン、イラクにまたがる地域に住んでいたクルド人。しかし国境ができて分散し、現在は「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれる。

「彼らの存在から私が受け取ったのは、『自分の国って何だろう?』という問いかけです。私自身、父がイギリス人、母が日本人というミックスルーツということもあり、『自分の居場所はどこだろう?』『自分の国を日本って言っていいのかな?』と疑問を持ってきたんです。状況は違えど、そんな自分につながるものを彼らに感じて、もっとクルドのことを知りたいと思いました」

日本にも2000人近いクルド人が暮らしていることを知り、東京都北区でクルド料理店を営む男性に会いに行く。

「コミュニティにはどんな方がいて、何に困っているのかをお聞きしました。そして、『映画にして伝えたい』と言うと、『自分たちは今、日本でいないことのようになっている。知ってもらえたらうれしい』と。そこからつてをたどっていろんな家庭を訪問したら、みなさん本当に温かく迎えてくださって。『陽』の魅力を持つ彼らが好きになりました。

その一方で、彼らが非常に苦しい状況にあることを知りました。日本は難民条約に批准しているから逃れてきたのに、衣食住にも困る状態。『日本に来て、治らない病気にかかってしまったみたいだ』という言葉をあるクルドの方から聞いたときは、とてもショックを受けました」