不況下の物価高=スタグフレーションの兆し

英語で円安は「weak yen」が一般的で、円が安くなるは「fall」を使い、少し厳めしい文章では「depreciation」(価値の下落)と表される。ともにネガティブな表現だが、日本では円安を歓迎する傾向が強い。円安は輸出が伸びて景気が良くなり、株高の材料にもなるという期待感からだ。

中小企業、家計は火の車に。恐怖の「円安スパイラル」に日本が絞り上げられる_a
4月13日には一時1ドル=126円と20年ぶりの水準にまで急落した(写真/共同通信社)

たしかに円安が輸出に有利であることは否定しない。だが、日本の輸出を主に担っている製造業の会社は為替レート変動のリスクや、輸送・人件費といったコストなどを総合的に判断し、一部の高付加価値部品などを除いて生産拠点を海外に移転している。だから現在、円安と輸出増の相関関係はほとんどなくなっているのだ。

ただ、例えば1ドル=100円から120円に円が安くなれば、同じ1ドルの輸出でも円換算で20円収益が増える。海外子会社からの利子・配当も同じだ。すると円安で企業の業績見通しは上方修正され、投資家がこれを好感して株価が上がる。

つまり円安は、大企業を甘やかすことになる。結果、収益が増えてもそれを内部留保にため込み、賃上げも技術開発投資も放置されてきた。

一方、輸入はといえば日本は食糧もエネルギーも、最近では半導体も海外に依存している。これらはドルで取引されているから、円安はドルに換算した輸入代金を膨らませ、日本企業の収益を圧迫する。

先に例示した為替レート変動では、それまで1ドル100円で輸入できたものが、20円余分に支払わなければならなくなる。

この追加費用を国内販売価格に上乗せすれば買い控えによって売り上げが減少し、かといって上乗せしなければその分、企業の収益が減るため、賃金下げにつながる。

売り上げは減少しているのに消費者物価が上昇し、しかし賃上げはこれに追いつかない。むしろ企業収益の悪化から賃金は抑制されるだろう。個人消費と企業投資が落ち込めば景気は悪くなる。

不況=stagnation、しかし物価は上がる=inflation。景気停滞下のインフレ昂進というこの現象をスタグフレーション(stagflation)と呼ぶ。景気を刺激しようとすればインフレが進み、インフレを抑制しようとすれば不況が深まる経済の合併症で、いよいよ日本でもこのスタグフレーションが現実のものとなりつつある。