駄菓子屋の雑多な店内、天井から目線の高さくらいに吊り下げられていた紙袋の束。紫や緑のそれぞれの安っぽい紙袋の中に、テーマ別にカード類が入っている。
子どもの頃、これを1回10円や20円で引いたものだった。ひと束の中にいくつか入っている「あたり」を引くと、さらにもう1枚引ける権利を得られる。
思えば昔はいろんなカードがあったような気がするが、今はどうなっているのだろう。
今回はカードくじの現状をレポートするために、駄菓子屋や問屋街に行ってみた。すると、近所の駄菓子屋だけでなく、東京都台東区にある蔵前の問屋などでも、他の駄菓子同様、種類は非常に少なくなっていた。
それでも昔を懐かしめる現存のカードくじを紹介しよう。
「ようかいけむり」は絶滅寸前⁉ 子ども時代 “当たり”に熱狂した「カードくじ」の今
当たるか、はずれるか、というドキドキ感が好きなのは、大人も子どもも同じである。それは、駄菓子屋に多くのくじが存在していたことでもよく分かる。実家が駄菓子屋だったイラストレーター、柴山ヒデアキ氏が、コレクション要素もある「カードくじ」のいま・むかしをレポートする。
ワクワクしながら引いた、さまざまなカード
■キャラクターシリーズ
ひと束すべて、「ヒーローもの」や「キャラクターもの」など、あるテーマに沿ったカードが入っている。これらは目当てのキャラのカードを狙うだけでなく、蒐集の楽しみを満たすためについつい引いてしまうという一面もあった。
現在店頭に並んでいるキャラクターカードは、例えばヒーローなら最近の仮面ライダー。あるいは現役のテレビアニメのキャラクター。
当然ながら、ターゲットが現在の子どもなので、もうすぐ50才を迎えようという私の世代が「懐かしい」と感じるキャラクターにはほとんど出会えなかった。
そのなかにひとつだけ目を止めてしまう懐古シリーズがあった。
『全日本暴猫連合なめんなよ』、通称「なめ猫」のカードである。

猫に、今で言う"ヤンキー"の衣装を着せて様々なシーンを撮影しグッズ化したこのシリーズは、1980年代に突然ブームを巻き起こし、日本だけでなく海外でも紹介されたほどだった。
今風にアレンジはされていても、あの頃に親しんだそのものの写真が、おなじみの免許証を始めトレーディングカードや名刺などのカードフォーマットに入れ込まれたシリーズになっている。
当時は、男子よりも女子のほうが好んで使い、下敷きをはじめとする文房具でよく見かけたような気がする。そうしたなめ猫ファンの女の子の気を引くために我々男子も使う、というわかりやすい社会構造もあった。
猫好きはいつの時代も健在なので、今でも再ブームの可能性が望めると思う。

ちなみに今回資料として束で入手した商品はこの「なめ猫」だけ。
「あたり」は20綴中2つだけらしいが、半分以上引いてやっと1枚出た。表紙に書いてある“連続当”の実現はなかなか難しそうである。
■アイドルのカード
当時の人気タレントの写真がカードに刷られて入っているものである。アイドルグループものがシリーズ化しやすかったのだろうか、記憶に多いのはそのあたり。やはり女子が中心に集めていたように思う。
現在売られている商品の多くは、韓流アイドルグループのものだった。
カードにハングル文字が刷られていたので、現地で売られているものを輸入して中身にしているのかもしれない。今なら子どもと一緒になって、お母さんが推しのカードを求め、引き続けるなんてこともありそうである。

ところでこの手の商品、肖像権などのライセンス関係はどう処理されているのだろう。大人になってからのこうした疑問は、ここでは深掘りせず割愛しよう。
しかしそのあたりがうやむやなおかげ(?)で、今も昔も、子どもが自分のお小遣いで手に入れられる一番身近なアイドルグッズであり続けているのかもしれない。
■金券くじ

私の実家では扱っていなかったが、金券くじというものもあった。他が、子どもの好きなビジュアルを印刷したカード自体に商品価値を持たせ、くじ部分は付加価値であったのに対し、こちらはくじを主体にした即物的なシリーズだ。
段階的に設定された当たりがその店で使える金券になるという、つまりは小規模のギャンブル商品である。
今回見つけた金券クジは、袋そのものが給与袋となっていて明細が刷られているのが面白い。

「きほん給80000円」は、なんというか今の時代、変なリアリティがある。「ガラスべんしょう代」は一体何があったのか。うっかり買ってしまった「ラジコン代」がやけに生々しく、謎の乗り物「"じでん"車」についても興味は尽きない。

そしてクジの結果は写真の通り。

リボンを勝ったり、ポシェットを買ったりと支出ばかりで、残った小遣いは0円。つまりはハズレだった。
なお、この月給袋のシリーズは、最大で200円が当たるということを、取材時に近くにいた小学生の女の子が教えてくれた。当たったことがあるのだそうだ。
当たった記憶は外れた記憶に比べ、強く印象に残るのがギャンブルの根幹。彼女には、その当選体験をよい思い出にし、今後もくじをほどほどに楽しんでほしいものである。
■ようかいけむり

「ああ、あったあった!」と言われる商品であろう。
何がけむりなのか、というと「カードに塗りつけられている物質を二本の指でピタピタさせると煙が発生したように見える」というおもちゃである。
要は化学反応なのだが、よく考えられたものである。開発部に化学者でもいたのだろうか。
この、火の立たないところになぜ煙が立つのか、という不思議体験と、それを怪異になぞらえたパッケージにして思い出に強く刻んでくれているという点では、最も駄菓子屋にふさわしい商品であると感じる。

ただ非常に残念なことにこの商品は既に、生産中止されているそうだ。
それをいち早く嗅ぎつけた転売屋によって買い占めが起こり、行きつけの駄菓子屋では「1人1枚」限定のルールが敷かれていた。
そして現在、ネットの転売サイトでは信じられない金額がついている。大人の金儲けのために、楽しい遊びが子どもたちに行き渡らないとしたら、残念で仕方ない。
そのかわり『ようかいけむり』は100円ショップで類似品が買えるとか、同じ化学反応を起こせるものを手作りできるという情報もあるので、興味があればそっちで再現してもらうといいだろう。
今回も、数十年ぶりに駄菓子屋で見つけたカードを通し、様々な記憶を呼び戻すことができた。
せっかくなので入手した「なめ猫」カードを仲間たちの飲み会に持って行き、束から1枚ずつ引いてもらった。
メンバー構成は30代から40代の男女。40代はこれを「懐かしいー!」「今、こんなふうになってるんだ!」と嬌声を上げた一方、30代はそのブームを知らず「こんなのが流行ってたんだー」と驚いていた。

ただ、いずれも、束からカードを引いて袋から出したときには、座が破顔と笑い声で満たされた。何十年経っても、カードくじをひいたときのワクワク感、そしてカードを手にしたときの花火のような喜びは同じだった。

文・イラスト・撮影/柴山ヒデアキ
撮影協力/
「BOWWOW316」東京都足立区千住3-16 TEL03-6812-0860 営業:14-17時 火・水曜定休
「柴崎商店」東京都台東区蔵前4-31-4 TEL03-3861-6637 営業:9-17時 日曜定休※
「小森屋商店」東京都台東区蔵前3-5-8 TEL03-3866-7143 営業:9-17時 日曜定休※
※いずれも土曜は15時まで
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