大人がなかなか気づきにくい子供たちの間での「ネットいじめ」が今、急増しています。
文部科学省が2021年度に発表した統計では、旧来型のいじめは減少傾向にあるものの、ネットいじめはそれに反比例して増え、5年間で倍増しているのです。これは2020年までの統計なので、コロナ禍や、GIGAスクール構想を経た今は、さらに増加していることが推測されます。
「ガイジ」「死ね」…女子高生を自殺に追いつめたネットの「言葉の暴力」への対処法
近年、ネット上でのいじめが急増している。旧来型のいじめよりも陰湿で厄介な「ネットいじめ」の4つの特徴を紹介。急速に進化するネット社会の中で、法規制が追いつかない「言葉の暴力」への対処法は…!?
熊本女子高生インスタいじめ自殺事件遺族の思い
5年で倍増しているネットいじめの現状

出典:文部科学省
ネットいじめは、子供を精神的に限界まで追いつめ、時として自殺の引き金となるほどの暴力性を帯びます。しかしながら、その実態は親や教員にすらあまり認識されていません。そのような無理解の中で、子供たちはネットいじめによる深刻なトラウマを負い、生涯にわたって苦しむことがあるのです。
私は拙著『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)で、ネットいじめの実態を深く検証しました。実際に起きている事例をもとに、その実態をお話しましょう。
「授業が終わったあと、友だちは去っていった。1人の子と一緒に担任の所へ行った。だれも助けてくれなかった。
もう死にたいと思った。だって死ねばいいって言われたから。
クラスのみんなが大好きだった。いつもアリガトウ」
これは、インスタグラムの投稿が切っ掛けとなり、クラスメイトからいじめに遭い、自殺をした高校3年生の女子の遺書です。前提として覚えておかなければならないのは、子供たちのネットいじめの大半は、リアルの延長線にあるネットの中で起こるものだということです。
ネットいじめの4つの特徴
まず学校でのリアルの問題がこじれ、それがネット空間に持ち込まれ、より陰湿ないじめへとつながる。そして、それがさらにリアルのいじめを悪質化させるといった悪循環が起こるのです。
たとえば、クラスの中である生徒が「陰キャ(暗い)」とされてバカにされていたとしましょう。それが放課後になってネット上で、別の悪口を生んだり、家族やきょうだいの罵倒になったりします。時には画像や音声がさらされることもあるでしょう。そして、それが学校にもう一度持ち込まれ、その子に対する過激ないじめへと発展するのです。
身体的な暴力を伴った昔のいじめの方がネットいじめよりひどかったと考える人もいるかもしれません。しかし、必ずしもそう言い切れるわけではありません。
ネットいじめの特徴はおおよそ次の4つに大別できます。
① いじめが24時間365日にわたって継続する
② 画像の加工など従来にない嫌がらせが起こる
③ 匿名性が高く、加害者の特定が困難
④ ネット言語に対する大人の無理解
かつてのいじめは、学校の中で完結していました。家に帰れば、少なくとも翌日に登校するまではいじめから逃れることができたのです。
しかし、ネットいじめは、家に帰った後にこそ起こるものです。具体的には、SNSで深夜まで悪口を言われる、自分以外のみんなが別のグループをつくって馬鹿にする、加害者から嫌がらせのメッセージが届く、といったことです。
つまり、いじめられている子は、帰宅後も24時間にわたっていじめやその不安に怯えることになります。その精神的苦痛は、学校だけのいじめよりはるかに大きいと言えるのです。
熊本高3女子インスタいじめ自殺事件
②は、ネットいじめならではの特徴です。かつて教室や校庭で行う「お葬式ごっこ」のようないじめがありました。しかし、今はお経や弔辞を流した葬式動画を作成してネット上に流すなどといったものに発展しています。
またヌード画像に生徒の顔をつけた写真や、売春をしているなどの偽情報をネット上に拡散させるものもあります。偽画像や偽情報であっても、被害者にとっては耐えられることではありません。
さらに③のように被害者が、加害者を訴えたくても、匿名性の高さゆえに犯人を特定できないこともあります。逆に言えば、加害者は被害者を攻撃する際、巧みに証拠を隠すのです。
最後に挙げられるのが、子供たちがいじめの際につかっているネット言語です。例を出せば、「ガイジ(障害児)」「池沼(知的障害者)」「自宅警備員(ひきこもり)」「ナマポ(生活保護受給者)」といったネット言語があります。
これはネットの世界では普通に飛び交っている言葉(ネットスラング)であり、それゆえに子供たちは罪悪感を抱かずにネットでもリアルでも発します。しかし、言われた本人は、どれだけのショックを受けるでしょうか。
実際、拙著では熊本在住の高校3年生の女子生徒が、インスタグラムの投稿がきっかけになり、クラスの人たちから「ガイジ」「死ね」「ネズミ」などと言われ、ついには自ら首を吊って亡くなるという事件をルポしました。
いわば、ネット上で飛び交っていた言語が、リアルの教室にまで波及し、それが尊い命を奪ってしまったのです。
加害者は自分たちの言葉が、女子生徒を死に追いやるほどの暴力性があるとは認識していなかったようです。これは、子供たちが言葉の暴力性にどれほど無自覚であるかを示しています。
常態化するネット世界での言葉の暴力
こうして考えてみると、ネットいじめが、リアルのいじめより、被害者を精神的に追い込んでいくことがわかるでしょう。
問題は、決定的な解決策がないことです。
まず、学校側は、子供たちが放課後のスマホ使用を制限できませんし、そこで行われていることを監視できません。親も同じでしょう。つまり、放課後のネット空間が不可侵な領域になっているのです。
また、子供たちが使う言葉遣いに対する規制もほとんどできていません。
ネットの世界には、先ほど挙げた言葉だけでなく、「うざい」「きもい」「死ね」といった暴言が氾濫しています。これらの言葉は明らかに人を傷つける悪口ですが、ネットでは当たり前のように使われ、運営会社は規制をしようともしません。ゆえに、子供たちはリアルの世界でも、そうした言葉を日常的に使用する。
教員や親は、その問題性をきちんと把握しておらず、制する手段がない。しかし、その言葉を投げつけられた子供は、筆舌に尽くしがたいトラウマを負うことになります。
言葉、技術、情報の使いこなし方を学ぶことは急務
私はネットの使用が子供にとって有害だと言いたいのではありません。ネットは子供たちに無限の可能性を与えることもあります。
しかしながら、ネットいじめの実態に光を当てた時、子供たちがそこに氾濫する言葉、技術、コミュニケーションを上手に使いこなせておらず、親も教員もどのように制限をかければいいのかわかっていないのも事実なのです。
熊本高3女子インスタいじめ自殺事件の遺族である父親は、次のように述べています。
「いじめと一言で表しても、暴力のいじめ、精神的ないじめ、言葉のいじめなど、たくさんあります。その中で言葉のいじめは軽く見られますが、うちの娘がそうだったように言葉は時として、人を自死に追い込むほどの暴力性を帯びた凶器となりえるのです。それを今の若い人に危機感を持って理解してもらいたいと思います」
ネット空間は「鍵アカ」と呼ばれるものも含め、今後ますます密室化していくことでしょう。そこではいじめが余計に表面化しにくいものになるはずです。民間企業が学校に入り込み、必死になって予防策を打っていますが、ネットの急速な進化もあって、いたちごっこのような状態になっていることは否めません。
だからこそ、親や教員がネットいじめの本質をしっかりと理解した上で、どう対策を打っていくかを直に話し合っていくことが不可欠なのです。
取材・文/石井光太
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