国際社会のイスラームとの向き合い方

山本 国連的に見ると、やはり女性の教育は大事です。「勉強したい」と言っている女の子がいて、それが認められないのはいけない。

たしかに「自由」ということを言い始めると難しいのですが、「一人の人間として自分が成長していきたい、そのために勉強したい」という人に対して、その機会が閉ざされることや、合理的な理由がないのに、「女性は特定の職業には就けない」というようなことは、国連から見ると「教育の権利」や「職業選択の自由」に抵触するのです。

もちろん、それが全部どこの社会でも100%できているわけではありません。だから、100%できないということが問題ではなく、禁止されていることが問題なのです。

イスラーム世界と西欧諸国が「女性の権利尊重」において理解しあえない理由_01
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内藤 イスラーム法上も禁止はできるかどうかは疑問です。

山本 そうですよね。

内藤 タリバンももともと「禁止する」とは、言っていないのですが。男性による女性の保護ということをうるさく言っているので、そこを大きくとると規制が強化されるでしょう。

山本 そうですね。しかし、現状それを事実上できなくしてしまうのが問題ですね。たとえばカブール大学の新しい学長は「女性の学生と教師は来るな」と言っていました。そんなことを言ってはならないと思います。

そういうところに対して、内藤先生がおっしゃったように発想を整理して、その上で説明すれば、ある程度うまくいくのではないかという気がします。

内藤 おっしゃるとおり「発想の整理」が、西欧諸国もタリバンも、双方ともできていないと思います。タリバンに限らず、イスラーム教徒の社会にも広くありますが、彼らは、敬虔であるほど、西洋がどういう世界であったかということを知らない。西洋は西洋で、やはりイスラームのことを知らない。教えの骨格は一つなんだけれども、現実の信徒にはどれだけの多様性があるかということを知らない。

山本 本当に知らないですね。正直言って、私もアフガニスタンに行くまで知りませんでしたからね。

内藤 そのままでは双方にとって不幸なことです。今回のタリバンの勝利というのは、ある意味、画期的なことです。イスラームで国をつくると言っている勢力が勝ったことは、今までありませんでしたから。

たとえばパレスチナのハマスはタリバンと同じようなことを言っていますが、じゃあハマスがガザ地区を完全にイスラーム法で支配できるかというならそれは不可能です。イランの場合には、シーア派であるという特殊性もありますし、国家の形態を見ると、擬似的に西洋的な要素を残しています。非常に厳格に、うるさいことを言っているように見えますけれども。

山本 たしかにイランには選挙もあれば、大統領もいますしね。

内藤 変ですよね。もしタリバン的な国をつくるのであれば、ハメネイ師の下に「大統領」を置く必要もないでしょう。

山本 たしかにそうですね。

内藤 ハメネイ師が自分で治める、ということになるはずですし、イスラーム法学者の意見を聞くシューラー(評議会)でやるはずですけれども、実は西欧と同じように閣僚たちもいるし、議会もある。そしてイランの政治を見ると、欧米の大学で勉強した人たちが閣僚に多勢います。イランの指導者たちは、知っているわけですよね、この世界で生きていくためには、シーア派の教えだけでは済まない、西欧がどういう世界なのかを知る必要がある、ということを。