芸人・ワッキーが情熱を燃やす舞台とは
医療業界の物差しでがんは5年再発がなければひと安心とされるなか、すでに6年が経過している。見事、寛解したと言える今、死生観に変化はあったのだろうか。
「大きな変化はないですけど、僕もいきなりがんになったので“人間いつ死ぬかわからない”とリアルに感じるようになりました。だからこそ、元気なうちにやるべきことをやっておかなきゃって思いは強くなりましたよね」
そのひとつが自分を救ってくれたお笑いに全力で取り組むことであり、ひとつは自分の大好きなJリーグを盛り上げること。そしてもうひとつが……。
「僕が2013年から出続けている舞台『Mother ~特攻の母 鳥濱トメ物語~』をもっと大きな、ずっと続けていけるようなコンテンツにすることなんです」
戦争と特攻隊の悲劇をテーマにしたこの舞台で、ワッキーさんは出演者の一人であるだけでなく、昨年からはプロデューサーという役割も担っている。約60人のキャストをまとめながら、企業へ自ら足を運んでスポンサーを募り、イベント会場でチラシを配ることもあるのだそうだ。
去年の公演は、全日程が完売に。今年はさらにキャパシティーを広げた劇場で10月21日から25日まで上演される。
「この作品を見ればどこの国の人も“戦争はしちゃいけない”、“世界中のみんなが仲良くしなきゃいけない”と感じられると自信を持って言えるので、使命を持ってやってます。
Motherって大きな石だと思うんです。この石を1回ゴロンと転がせば勝手にどこまでも転がっていく、そのくらい素晴らしい舞台だという自負があります。でも今、この石は半分地面に埋まっている状態。去年完売となってようやくその穴から出かかっている手ごたえはあるんですが、ここで手を離したらまた穴へと戻ってしまう。
だから健康でパワーのあるうちに僕が先頭に立って、この石をグググッと押してなんとか穴から出して転がしたいなと思ってるんです」
がん治療の後遺症で今でも唾液の分泌量は以前の3割程度。「唾液ってじつはめっちゃ大事だったんだなって」と痛感するワッキーさんは、常に喉がカラカラで噛みやすくなっており、セリフを言うのもひと苦労だ。
それでも「見どころ? それはもちろん主演の酒井美紀さんと僕との絡み。本物の女優さんとお笑い芸人がどんな化学反応を起こすのか。緊張で僕の顔が引きつってるのが見どころです」と笑う。
転がる石に苔は生えぬ。味覚や唾液に異常があっても、54歳でアラ還間近でも、巨石を押す手の力は決して緩めない。
取材・文/武松佑季
撮影/下城英悟













