残された手段は?
東海道新幹線が開業した1964年、車内には当初からワゴンによる車内販売が導入され、ほぼ同時期にサービス向上のための飲料自動販売機も設置された。
しかし、時代の変化とともにこれらのサービスは縮小の一途をたどる。東海道新幹線の16両編成では、2014年に自動販売機が撤去された。さらに2023年には、JR東海で普通車およびグリーン車のワゴンによる車内販売が惜しまれつつも終了。
JR西日本はJR東海よりも長く自動販売機の設置を維持し、「最後の砦」として機能していたが、これも今年3月末をもって完全に営業を終了した。現在、JR東海では「グランクラス」など一部車両を除き、車内での飲料購入手段は、グリーン車を対象としたスマートフォンによるモバイルオーダーのみとなっている。JR西日本でも、9月30日をもってグリーン車のワゴン販売は終了となり、JR東海同様、一部車両を除きモバイルオーダーでの販売のみになる。
JR東海はワゴン販売終了の理由について、公式サイトで以下のように説明している。
「駅周辺店舗の品揃えの充実、飲食の車内への持ち込みの増加、静粛な車内環境を求めるご意見、また将来にわたる労働力不足への対応等」
実際、人手不足や飲食物持ち込みの増加により、車内販売の売上は終了時点でピーク時の半分以下にまで落ち込んでいたと『カンテレニュース』が報道している。JR西日本も、自動販売機の廃止理由を「駅周辺の飲料販売の充実による、車内自販機の利用減少」と説明しており、民間企業としての合理的な判断であったことは否めない。
しかし、長年親しまれてきた車内販売の廃止は、単なる利便性の低下だけでなく、旅の情緒や「安心感」をも奪ってしまった。
新幹線を頻繁に利用していたという東京在住の60代男性は、かつての風景をこう懐かしんだ。
「子どもが『アイスが食べたい』とぐずったとき、ワゴンから買ったカチカチのアイスを、手で温めながら食べた記憶がありますね。
出張帰りに同僚とワゴンで冷えたビールを飲んだりもしましたね。ワゴンがなくなった時は寂しいなと思いましたよ」
こうした「旅の安心と楽しさ」が失われた今、懸念されるのは乗客の安全管理だ。現在残されている唯一の購入手段であるモバイルオーダーは、グリーン車などの一部車両に限られている。
だが、本当に熱中症のリスクにさらされやすいのは誰なのか。それは、体温調節機能が十分に発達していない子どもたちや、スマートフォンの操作に不慣れな高齢者層ではないだろうか。
車内には体調不良者向けの非常用水分などが備えられているものの、日常的な購入手段が失われたことで、乗客は事前に飲料を準備して乗車することが基本となった。
しかし、猛暑が深刻化する現代において、急な体調変化や運行遅延への不安を乗客の事前準備だけに依存せず、公共交通としての安心感をいかに維持していくのかは考える余地があるだろう。
現代のニーズに合致した夏季限定のワゴン販売など「救済策」を望む声は、単なるノスタルジーではなく、乗客たちの切実な願いかもしれない。
取材・文/小島ゆう













