防犯カメラで「現場が萎縮」する?
斉藤 本書を企画したきっかけは、2025年に起きた名古屋市を震源地とする教員盗撮グループの事件です。この事件が報道された際には、末冨先生への取材が殺到したそうですね。
末冨 そうなんです。当時は2026年に控えた「こども性暴力防止法」の施行を前に、ロンドンで調査研究を行っていました。時差の関係もあり、夜中にマスコミからの電話で飛び起きるなど、対応に苦慮しました。
それはともかく、何より気になったのが、マスコミの関心が学校内の防犯カメラの話題にばかり向いていた点でした。私の専門は教育行政学や教育財政学ですが、警備会社に尋ねるべき技術的な質問まで多数寄せられたほどでした。
斉藤 防犯カメラについて、末冨先生はどのようにお考えですか?
末冨 防犯カメラの設置には賛成です。ただし、防犯カメラは校内盗撮の特効薬ではなく、子どもを守るための「最低限の装備」にすぎません。加害者に「あ、この場所では盗撮は無理だな」と犯行を断念させ、加害を防ぐ「一次予防」としての効果は期待できます。
斉藤 末冨先生が長年研究されているイギリスの学校現場では、防犯カメラはどのように普及しているのでしょうか?
末冨 学校だけでなく、保育園、スポーツクラブなどでも防犯カメラは設置されています。目的は2点。わいせつ行為などの訴えがあった際に自治体や警察と連携し、法廷証拠能力のある記録を確保することと、そして冤罪の防止です。
そもそもイギリスでは、校長等の許可なく教員が児童・生徒と2人きりになることが禁じられており、不適切な接触がないかカメラで監視できるような体制になっています。
斉藤 2026年4月には愛知県みよし市が、中学校での盗撮事案を受け、全国に先駆けて全小中学校に計914台のカメラを設置しました。教室や更衣室、トイレの出入り口を24時間撮影するために、防犯カメラを運用すると報じられています。
末冨 防犯カメラは、設置すること以上に運用ルールが肝心です。
みよし市の詳しい運用方法についてはガイドラインが整備されましたが、先行するイギリスと同様に「映像は盗撮など問題が起きた場合にのみ確認」「保存期間は30日」「アクセス権限は管理職に絞られる」など、徹底したデータ管理の下で運用されることになっています。
斉藤 日本では、学校に防犯カメラを設置することについて賛否両論があるようです。
末冨 運用ルールについて正しく伝わっていないのも一因だと思います。みよし市などの先行する自治体でこういったルールが明らかになれば、状況は変わっていくでしょう。ちなみに、2025年12月24日から2026年1月31日にかけて熊本市教育委員会が行った調査では、保護者の約8割が設置に賛成するものの、学年が上がるほど「必要ない」と答える生徒が増える傾向が浮き彫りになっています*1。運用ルールが明確にならない以上、「監視されているようで不安」「録画されたデータがSNSに流失しないか」という声が生徒から出るのは当たり前だと思います。
一方で「防犯カメラがいらないと言っているのは、何か悪いことを企んでいる人だと思います」という生徒の意見もあり、それはまさに本質を突いていると思いました。
斉藤 日本では「指導する側が萎縮する」「信頼関係が損なわれる」といった意見も根強いですね。
末冨 日本の教育現場には、子どもよりも教員、つまり「身内」をかばう意識があると感じます。この風潮はすぐにはなくならないので、身内びいきの意識を前提とした仕組みづくりを考えなくてはなりません。
再び熊本市の事例ですが、体罰やいじめ、教員のわいせつ行為などについて、生徒が相談できるオンラインアンケートが定期的に実施されています。生徒からの相談内容は、学校や自治体の教育委員会に届く仕様になっているようです。しかし、特にわいせつ事案については、各自治体が運営する「子どもの権利相談センター」など外部の組織にも相談・通報を可能にして、学校の身内びいきの風潮を排除する工夫が求められると思います。
*1 熊本市教育委員会事務局「防犯カメラ設置に関するアンケート結果について(市立学校 校舎内防犯カメラ)」https://www.city.kumamoto.jp/kiji00363483/3_63483_491129_up_ga1il1bv.pdf
写真/shutterstock













