「プロに指名されるかどうかわからない」

「野球のうまい子どもは同じようなプレーをできないチームメイトを見下したり、文句を言ったりすることも多いんですが、松川にはそういうことが一切なかった。

あるとき、キャッチャーをしていた松川の二塁への送球が早すぎてセカンドもショートも追いつけず、センターに抜けるということがあった。ところが、松川は文句を言うどころか、次の送球の機会の時にはセカンド、ショートが追いつけるようにわざとゆっくりと投げていました。

チームプレイの大切さが小さい頃からわかっていたんです。そんな松川だから、チームメイトにはとにかく信頼され、愛されていました」(前出・ワンワンスポーツクラブ関係者)

攻走守に万能だった松川だが、やがてキャッチャーのポジションに専念することになる。前出の佐藤会長が言う。

「中学で貝塚ヤングに加入したんですが、リトル時代の投げっぷりが凄かっただけに、当然、貝塚でもピッチャーをやると思っていたんです。ところが、しばらくぶりに会って話を聞くと、『自分よりもすごいピッチャーと出会ったんで、今はキャッチャー一本でやっています』と言う。

それが市立和歌山高校でバッテリーを組むことになる小園健太投手(横浜・21年ドラフト1位)でした。現在、ベイスターズで背番号18をつける小園君の投球を見て、『コイツの球を受けてみたい』と思ったみたいですね。もし、小園君と出会ってなかったら、松川はどこかの球団でピッチャーをやっていたと思いますよ」

その後、松川は21年ドラフトで高卒捕手として異例のドラフト1位指名を受ける。

「ドラフト1週間前に会った時、虎生は『指名されるかどうか、わからない』と答えていました。本人もドラフト4位か、5位の指名なら上等と思っていたようです。それがまさかのドラフト1位。家族や親戚もびっくりされてたようですが、虎生本人が一番びっくりしたんじゃないでしょうか?」(前出・ワンワンスポーツクラブ関係者)

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開幕前、「2~3年後が勝負の年。それまでにしっかりアピールしたい」と抱負を語っていた松川だが、5月16日には3-4月度の「プロ野球最優秀バッテリー賞 powerd by DAZN」を佐々木とともに受賞。

ふたりが「日本最強のバッテリー」と呼ばれる日は、きっとそう遠くないはずだ。

写真/共同通信社 ボールルーム