“ゴルバカ”を自認する筆者はもちろん、筆者のゴルバカの師匠・カラサワ氏の目も寝不足で充血している。テレビの前で観戦していただけなのに、まるで戦いを終えたゴルファーのように心地よい疲労感に包まれているのは、我ながらおめでたい限りだ。
優勝したのは25歳のスコッティ・シェフラー(アメリカ)。2位のローリー・マキロイ(北アイルランド)に3打差の圧勝だった。そのプレーぶりは、「安定とはまさにこういうプレースタイルのこと!」と言いたくなるような危なげなさで、他の追随を許さないものだった。
けれど、「波乱」や「ドラマ」を見たいゴルバカふたりにとっては、少々もの足りない展開だった。
「このまま終わっちゃマスターズらしくないよね」
ふたりの意見は激しく一致。何かが起きる、起こってほしい。そんな思いで最終ホールに向かうシェフラーをテレビ越しに熱く見ていた。第1打、第2打ともに無難にやり過ごした時点で2位とは5打差があった。
10mほどの下り、簡単ではないパットが残ったがファーストパットを残り1mほどに寄せた。あとはウイニングパットを決めるだけ。見ている側としては、どんなガッツポーズをするのか、歓喜の涙はあるのかなど、早くも「優勝後のシェフラー」に思いを巡らせ始めた。
マスターズにゴルバカ大興奮! 松山英樹やタイガー・ウッズには微笑まなかったオーガスタの女神が用意した派手なドラマ
松山英樹の連覇は? タイガー・ウッズは復活なるか? 例年以上に話題豊富で注目を集めたマスターズが4月11日に幕を閉じた。日本のゴルフファンにとっては、さぞかし寝不足にさせられた4日間だっただろう。全国のゴルバカたちを興奮させた今年のマスターズのドラマを振り返る。(画像/Kyodo News)

昨年の覇者・松山英樹(右)にグリーンジャケットを着せてもらうマスターズ初制覇のスコッティ・シェフラー
オーガスタの女神は“ツンデレ”か
ところがオーガスタの女神は気まぐれなのか、ゴルバカに対してサービス精神旺盛なのか、くるりくるりとウイニングパットを2回も「拒否」したのだ。
アマチュアゴルファーでもショックで落ち込む痛恨の4パット。これをシェフラーに課したのだ。
「これでマスターズらしくなったでしょ」とオーガスタの女神がつぶやいたような気がした。オーガスタの女神は気まぐれで、なかなか厳しい。
連覇を期待された松山も今年は女神と仲良くなれなかった。予選ラウンド2日間は、神業のようなアプローチショット(グリーン近くからカップに寄せるショット)を連発して、3アンダーの2位タイ。連覇への期待を高まらせる成績で決勝ラウンドに進出した。
しかし、決勝ラウンドが始まった土曜日の1番ホールで、微妙に女神との関係がすれ違い始める。ナイスアプローチで寄せたパーパットを決めきれない。すれ違った関係を、結果として最後まで修正しきれなかった。
4日間を戦い終えて松山は「最終日は6〜7アンダーを目指して、どんどんバーディを取っていきたかったけれど、パットを入れることができなかった。パット以外は(体調もショットも)だいぶ戻りました」と決めきれなかったパットを悔やんでいた。
固唾を飲んで見ていたカラサワ氏は「一生懸命にアプローチで寄せて、でも、そのナイスアプローチが生かせない。パーセーブできないのは心のスタミナを奪うんですよね」としみじみ言った。これはどうやら超一流プロもアマチュアも一緒のようだ。
“ガラスのグリーン”と異名を持つオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ。その複雑なアンジュレーションゆえに、カップに背中を向けてパッティングをするプレーヤーもよく目にする。そんなグリーンで際どいパットが入ったり入らなかったりする。こんなところもマスターズらしさなのだろう。

交通事故から復帰し、マスターズに出場したタイガー・ウッズ
今回、1年5カ月ぶりにツアー復帰したタイガー・ウッズもまた、マスターズらしさに魅せられているプレーヤーのひとりだ。右足首にボルトやプレートを入れたまま、曲げることも困難な状況であえて出場した。開幕前の会見で「優勝できるか?」と聞かれて「I do」(できる)と答えた姿は、ゴルバカたちに深い感銘を与えた。
「やっぱりタイガーでしょ!」とゴルバカたちは、もしかするとジャック・ニクラウスの46歳2カ月での最年長優勝記録を更新(ウッズは46歳3カ月)し、6度の最多優勝記録に並ぶのでは……と夢想もした。
ウッズはしっかり予選を通過したが、最終的には13オーバー47位で大会を終えた。初日は比較的軽い足取りで歩いていたタイガーだったが、最終日には足を引きずるような痛々しい仕草をたびたび見せていた。
限界が近かったのだろう。それでも途中棄権という選択肢を取らず、最後までプレーすることをウッズに決断させる「何か」が、マスターズには、オーガスタには確実にあるのだ。
ホールアウト後の会見でウッズは「ここまで来られたのはみなさんの支えのおかげで、感謝しかない」と述べた。ゴルバカとしては、こちらこそ感謝しかない。
もう来年のマスターズが待ち遠しい!
松山英樹の惜しいパットの連発や優勝したシェフラーの4パットなど、あまりポジティブとはいえないマスターズらしさを紹介したが、実は今回のマスターズで最もポジティブで、ゴルバカの胸を踊らせたのは、最終日の18番グリーンサイドのバンカーで繰り広げられた「ドラマ」だ。
マキロイとコリン・モリカワ(アメリカ)のパーティーはそろって好調なゴルフを見せていた。ふたりともマスターズには勝っていないが、複数のメジャータイトルを持つ実力者なのだから、当然といえば当然だ。ただ18番はふたりとも第2打をグリーンサイドのバンカーに入れてしまった。
マキロイはバンカーからピンのはるか右に打ち出したボールが、グリーンの傾斜で転がってカップイン。バンカー内で飛び跳ねる大喜びのバーディ!
そして次に打ったモリカワのボールは真っ直ぐにピンに向かい、こちらもカップイン! 同じバンカーからまったく異なるルートでチップインバーディを立て続けに見せてくれたのだ。まさに神がかり。パトロンたちも沸きに沸いたのは言うまでもない。
オーガスタの女神は、こういう派手なシーンも用意してくれるのだ。だからゴルバカにはたまらない。あぁ、今から来年のマスターズウィークが待ち遠しくて仕方がない。

練習ラウンドを見るためだけにオーガスタを訪れたカラサワ氏の記念ショット
柄澤正寛(カラサワ・マサヒロ)
“ゴルフ好き”の元CMプロデューサー。柄澤ゴルフクラブ代表。ゴルフ好きが高じて50歳で一念発起、CM制作会社を退職しゴルフ工房を立ち上げた。クラブフィッティングやクラフト作業のかたわらトーナメントの現場仕事、クラブ・パーツメーカーの動画制作などゴルフと名の付く仕事はよろず承るさすらいのゴルフ人。HCは7.2(これも元!)。マスターズに魅せられ、練習ラウンドを見るためだけにオーガスタに赴いた、筋金入りのゴルバカ。