2021年2月に交通事故で右足などに重傷を負い、ツアーから遠ざかっていたタイガー・ウッズ。ツアープレーヤーとしての復活を危ぶむ声もあった。そんななか、昨年末からはエキシビションなどでカートを使ってプレーする姿も見られたが、本格復帰の時期はまだ見通しが立たないと言われていた。
それが、4月3日にマスターズの練習ラウンドに姿を見せたことで、2020年11月(コロナ禍のため変則開催になった)のマスターズ以来のツアー復帰への期待感が高まっていた。そして5日の公式会見を受け、おそらく、世界中のゴルフフリークたちは快哉を叫んだに違いない。
3日、ウッズがオーガスタ・ナショナルGCのドライビングレンジで、直前のテキサスオープンを途中棄権し、そのコンディションが心配されている松山英樹と談笑するシーンがあった。ウッズが松山に「チャンピオンズディナーはどうなっている?」と話し、握手を交わしたと報じられている。松山を応援する日本のゴルバカとしては、まさにゴルバカ冥利に尽きる胸熱の一瞬だった。
松山とウッズは同じツアーで戦っているし、ウッズがマスターズ5度目の優勝を果たした2019年秋に日本で行われた「ZOZOチャンピオンシップトーナメント」で、デッドヒートを演じ、ウッズが3打差で勝っている。
つまり、松山とウッズが談笑し握手を交わしても何の不思議もない。ないんだけれど、マスターズ開幕直前のオーガスタ・ナショナルGCで、「ディフェンディングチャンピオン」である松山が、ウッズから話しかけられ笑って握手を交わすということに特別な意味を感じてしまうのだ。
大昔の話で本当に恐縮だが、『さらば友よ』という映画で、アラン・ドロンがチャールズ・ブロンソンのタバコに火をつける有名なシーンを思い出した。男と男がお互いを認め合いリスペクトを示す……とでもいえばいいのだろうか。
テレビの前で固唾をのんで観戦している“ゴルバカ”としては、マスターズの申し子ともいえるゴルフ界のスーパースターであるタイガー・ウッズに、四国の明徳義塾中学・高校を経てゴルフの腕を磨き、アマチュア世界ランキング1位、マスターズのローアマ獲得、そして10年間挑戦を続けてついにプロとしてマスターズチャンピオンに輝いた松山が、一段ずつ階段を登ってとうとうたどり着いた場面、そんなふうに思えてしまうのだ。
プライベートまでは知る由もないが、松山がメジャーチャンピオンとしてウッズと相対するのは初めてのはず。だから、彼がようやくウッズと本当の意味で同じフィールドに立つことができた瞬間だと感じて、いっそう胸が熱くなった。
タイガー・ウッズがマスターズに帰ってくる! “ゴルバカ”を熱狂させる松山英樹との歴史をかけた対決
タイガー・ウッズがオーガスタに帰ってくる。マスターズウィークに突入して活気づいているオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(GC)が現地時間の4月5日、いっそうの盛り上がりをみせた。公式会見でウッズが今回のマスターズへの出場を明言したのだ。(画像/Kyodo News)

マスターズの練習ラウンドで談笑したタイガー・ウッズ(左)と松山英樹
ゴルバカ胸熱の松山とウッズの談笑

記者会見に臨むタイガー・ウッズ
歴代最年長優勝で「TIGER IS BACK!」なるか!
ウッズは1995年のマスターズに初出場してローアマを獲得している。当時はまだスタンフォード大学の学生だった。そして翌96年にプロ転向し、97年のマスターズでは21歳3カ月で史上最年少優勝を果たした。
2001年、02年は連覇を達成。05年にはもはや伝説といわれる16番パー3でのスーパーチップインを見せ、クリス・ディマルコとのプレーオフを制してマスターズ4回目の優勝。その後、故障や私生活でのトラブルなどもあり、プレーヤーとして精彩を欠く時期もあったが、19年には涙の復活優勝を見せてくれた。そして前述した21年2月の交通事故に遭う。まさに波乱万丈とはこのことである。
報道によると、ウッズは松山と談笑した後、ドライビングレンジで調整して、10番から練習ラウンドをスタートした、とある。
オーガスタ・ナショナルGCは咲き誇る花々と緑の芝、池や小川の青など、とにかくきれいな景観で知られている。しかし一方で、PGAツアーの会場の中でも指折りのアップダウン(高低差)が厳しいゴルフコースでもある。
全18ホールの中で最も高低差があるのが10番で、それは46mにもなる。この高さはニューヨークの自由の女神像と同じだそうである。
10番スタートということは、普通に考えればINコースをプレイして18番ホールに上がってくる。18番はティーからグリーンまでずっと打ち上げで、トーナメント中継を見ていると、バッグをかついだキャディーが息も絶え絶えというシーンも散見されるほど、長い登り傾斜が続いている。
ウッズの本格復帰を危惧する声の中で多くを占めていたのが、4日間4ラウンドを歩きとおせるのかという不安だった。負傷したのが右足だったからだ。
そこにウッズ本人の意図があったかどうかはわからない。でも、あえてアップダウンの厳しい10番から練習ラウンドをスタートしたことに、ゴルバカとしては意味を感じてしまうのだ。
今回、ウッズは46歳で出場することになる。
1986年、11年ぶりにマスターズでの復活優勝を果たしたジャック・ニクラウスは、ウッズの5度を上回る最多の6回優勝を誇る「帝王」である。同年マスターズの最終日、18番のフェアウェイをグリーンに向かって登っていくニクラウスは、オーガスタ・ナショナルGCを埋め尽くしたパトロン(ギャラリー)たちの「JACK IS BACK!」の大歓声に包まれた。そして、その大声援の中、彼はマスターズの最年長優勝記録と最多優勝記録を更新したのだった。
その時、ニクラウスは46歳2カ月。今年、ウッズは46歳3カ月で挑む。
「TIGER IS BACK!」ははたして……。