エース格がひとり抜けるだけで、こうも戦いは違ってくるものなのか。
阪神の連敗を眺めてそう思った。本来なら昨年13勝の青柳晃洋が開幕戦先発の予定だったが、コロナによる離脱で藤浪晋太郎の起用となった。藤浪が悪いわけではないが、彼の抜擢はいわばギャンブル。勝てば勢いに乗れるが、負ければ相応のリスクが伴う。
連敗中は繋がりに欠けた打線にも問題はあったが、結果、バタバタと落ち着かない投手起用が重なっていった。開幕9連敗に関西のスポーツマスコミは、早くもシーズンが終わったかのような騒ぎだ。
しかし、冷静に考えればそんなことはない。いきなりの借金9とはいえ、ここから2勝1敗ペースでいけば1ヶ月で勝率5割に戻せる。実際は負け越すカードもあるから、2ヶ月は必要か。それでも6月上旬に勝率5割に戻せれば、いくらでもその上を狙っていけるだろう。
さて本題の佐藤輝明だが、開幕10試合を終えたところで43打数12安打。打率3割8厘、6打点、1本塁打、3四球。ヒット自体は出ているし、四球を選び、出塁もしている。ホームランと打点は少ないが、状態は悪くないといえるだろう。
阪神「逆襲のキーマン」佐藤輝明に 2年目のジンクスはあるか?
開幕9連敗と大きく出遅れたタイガースにあって、「逆襲のキーマン」といえるのが今季から4番にすわる佐藤輝明だ。はたして彼に2年目のジンクスはあるのか? ヤクルト、近鉄、巨人などで打撃コーチを歴任した野球評論家の伊勢孝夫氏が佐藤の開幕10試合の全打席をチェックした(成績は2022年4月5日現在)
6月に勝利5割を目指せ

4月5日、待望の今季第1号ホームランを放った
実際、フォームは去年と比べて良くなっている。例えばステップ。投手がボールをリリースするとき、佐藤は構えた位置から右足を軽く上げるが、バットを振り下ろす際、降ろす足が立っていた元の位置に戻せている。
多くの打者はスタンスよりも投手寄りに踏み降ろす傾向があるが、元の位置に戻せるならポイントが狂うこともなく、良い形でスイングすることができる。阿部慎之助やバレンティンも好調時にはこうしたステップでホームランを量産していた。それが今の佐藤にはできている。
ではなぜ、ここまでホームランが1本しか出ていないのか。これは相手バッテリーが効果的に内角のベルトから高めのコースを攻めた結果といえるだろう。
ヤクルトの高橋奎二や巨人の赤星優志もそうだったし、4月2日の巨人戦で最終回に出てきた抑えの大勢は5球すべてが内角高めのストレート(結果は苦し紛れに打たされた形でのショートライナー)。ここを巧みに攻められたら、思うようには打たせて貰えない。
打席で凄みが感じられない理由
ならばいかに克服したらいいのか。答えは「内角高めは捨てて、打てる球に集中すること」だ。前述のようにバットを出してもなかなかヒットにはしづらいし、なまじ攻略しようとするとフォームを崩すことにもなる。打てないものは捨てる。この割り切りこそ、打者にとって大事なことなのだ。
だが今の佐藤に、それを理解しろというのは酷かもしれない。4番として、自分が打てばチームの勝利に手が届く。だからこそホームランが欲しい。そんな感情が渦巻く中で打席に立っているのだろうから。
ちなみに開幕9試合、全39打席でホームランにできそうなボールはほとんどなかった。10安打したうち、内角球をヒットにできたのは3月31日の広島戦、5回の第3打席に玉村昇悟投手が投じたストレートをライト線に弾き返して二塁打を記録した打席だけ。
それ以外の安打は真ん中低めのフォークを拾ったものか、レフト方向にしかヒットにできない外角よりのストレートばかりだった。ホームランにできそうなボールがほとんどこないのだから、これではストレスも溜まる。
ただ、技術的な問題や配球への対策以前に、今の佐藤を見ていて気になることがある。それは打席で凄味を感じられなくなっていることだ。
佐藤の持ち味は、言わずとしれた破壊力。強くボールを叩き、スタンド上段に運ぶパワーとスケールは球界屈指のものだ。ところが今季はそうした凄味が打席から感じられない。これは打席での佐藤の姿勢にあるのではないかと私は思う。
昨シーズン終盤、佐藤は59打席連続ノーヒットという、野手としての日本記録を作るほど、打てない時期を過ごした。いかに新人とはいえ打者としては屈辱だ。二度と同じような悔しく辛い思いはしたくないだろう。
そうした想いから空振りを恐れ、スイングがおとなしくなっているのではないか。今季、ヒットはそこそこ出ていても、長打が少ないのはこれと無関係ではあるまい。昨年、プロの怖さを知ったことで、皮肉にも今、佐藤自身の怖さが失せているように見える。
開幕10戦目となる4月5日のDeNA戦では、初回の第1打席でライトスタンドぎりぎりのゾーンにようやく今季第1号を放った。コースは本稿で指摘している内角高め。ただ、打球自体は詰まり気味で、本人としても決して納得のいく当たりではなかっただろう。
とはいえホームランには変わらない。1本出たことで気分良く、前向きな気持ちになれたはずで、2本目、3本目もそう遠くはないだろう。
佐藤が打って、チームもようやく初勝利をあげた。これで今後は地に足をつけて戦えることだろう。あとは持ち味である凄味が戻ってくるのを待つだけだ。
写真/共同通信社
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