マスターズが特別なのは、いくつか理由があると思うんだけど、その成り立ち、歴史がまずは大きいでしょうね。
かつて、とてつもなくすごいゴルファーがいました。1930年、1年で当時のゴルフの4大大会(全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマ)を全部優勝した若者、ボビー・ジョーンズです。彼はまさに文武両道。弁護士の資格も持っているし、ゴルフはもちろんすごくうまい。
この時代は1929年から始まった世界恐慌の真っただ中でしたが、アマチュアのまま4大メジャーを制覇したジョーンズの偉業は、ニューヨークで大パレードを催すくらい、アメリカ中に勇気と熱狂を与えました。
ストイックなゴルフスタイルと圧倒的な強さでアメリカのヒーローとなったジョーンズですが、当時28歳の彼は、グランドスラム達成を機に競技ゴルフから引退してしまうんです。
ジョージア州アトランタ生まれのジョーンズは引退後、友人たちとプライベートクラブを作るべく、オーガスタ(ジョージア州)まで候補地を探しに行きました。そして、見つけたのが果樹園だったのですが、その果樹園こそ、現在のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(GC)というマスターズ開催地のゴルフ場の礎なのです。このオーガスタ・ナショナルGCは1933年に開場し、翌1934年にここで記念すべき第1回マスターズトーナメントが始まりました。
実はジョーンズは「引退したら何をするつもり?」と聞かれたときに、英国のある詩の一節に自分の気持ちを代弁させているんですね。
“もし僕が金持ちになったら、あるいは年老いたなら、僕は草葺き屋根の小さな家を建てたい”というような文章で始まる詩なんですが、それは要するに競技生活を終えて、仲のいい友達みんなと酒でも飲んで遊びたいね、それはなんて幸せなんだろう、というような内容なんです。
そういう考え方があって、本当に気の合った仲間が集まって、何かゴルフトーナメントみたいなことを始めようと。これがマスターズの原型だったわけです。
そもそも「マスターズ」という名でもなく、ギャラリーもほぼいなかった⁉︎ 伝説のゴルファーによる伝説の祭典はこう始まった
昨年は松山英樹の感動的なアジア人初優勝で幕を閉じたゴルフの祭典、マスターズトーナメント。感極まった解説の中嶋常幸プロ、宮里優作プロと中継のアナウンサーが涙声となり、放送事故とまで言われたあのマスターズ、である。そのマスターズが、いよいよ今年も4月7日に開幕する。世界中にゴルフトーナメントはたくさんあるけれど、こと、マスターズの盛り上がりに関しては、ちょっとほかとはレベルが違う感じがする。それはいったいなぜなのか。JGA(日本ゴルフ協会)オフィシャルライターで、自らマスターズに40回以上も取材に赴いているゴルフ評論家界のレジェンド、三田村昌鳳さんにその理由を聞いてみた。短期連載第1回は、マスターズの黎明期の話をお届けする。
短期連載・マスターズはなぜこんなにも「特別」な大会なのか
第1回 憧れの祭典の始まり

マスターズの創設者であるボビー・ジョーンズ(1902〜1971年)/Getty Images
「気の合う仲間と楽しみたい」が原点

マスターズの原型は「国際招待試合」として1934年に始まった/Getty Images
当初のギャラリーは50人程度⁉︎
だから、第1回はマスターズというタイトルではなくて、プログラムを見ると「ファースト・アニュアリー・インビテーショナル・トーナメント(国際招待試合)」という名前でスタートしています(1940年からマスターズに改称)。
この第1回っていうのは、ほとんどギャラリーがいなかったんですよ。そして、第2回には、ジーン・サラゼンが現在の15番ホールのパー5でアルバトロス(ダブルイーグル)を取ってプレーオフに進んで勝つという白熱の展開がありました。
この第2回のときですら、ギャラリーはたった50人程度だったんだけど、その後サラゼンが赤十字のチャリティーマッチで世界のあちこちに行った際に、何万人という人が「あのアルバトロスはすごかった!」と言っていたそうなんです。テレビ中継もなかった時代でしたが、ジョーンズに招かれた世界の超一流プレーヤーたちが、そのスーパープレーをあちこちに伝えていったんでしょうね。
サラゼンはそのギャラリーの中にジョーンズがいたことが、すごくうれしかったと語っています。
現在のゴルフ4大メジャーといえば、マスターズのほかに全米オープン、全米プロ、全英オープンがありますが、ひとつのコースでずっと開催されているのはマスターズだけです。
また、出場選手を決めるための予選がなく、歴代チャンピオンや世界ランキング上位者などいくつかの招待資格をクリアしたマスター(名手)だけが招待されるトーナメントもまた、マスターズだけ。超プライベートなオーガスタ・ナショナルGCが年1回だけ、一般に開放されるのです(といっても入場するのは簡単ではありませんが)。
しかもその創設者は「球聖」とも呼ばれ、ゴルファーのリスペクトを集めるボビー・ジョーンズであるということ。これはマスターズを特別たらしめる、とても大きな要因なのです。
(第2回「オーガスタ・ナショナルGCの魔力」に続く)
取材・文/志沢 篤
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