「事実は小説よりも奇なり」と言われますが、2003年に探偵社「MR」を設立してから、約26万件もの「不倫調査」の相談を受けてまいり、その間、数多くの信じられない事案に接してきました。中でも印象的だったのは、不倫の発覚によってすべてを失い、名誉も人望も社会的信頼も地に落ちてしまい、絶望の淵に立たされた人、一方、不倫の事実を受け入れ、逆に夫婦間の理解が深まって円満になった人など、時折こちらの予想をはるかに上回る末路に遭遇しました。
実際に調査を行ったところ、約9割は不倫や浮気をしていることが、弊社の調査データからも判明しています。夫や妻がいつもと違う態度や行動や言動を取り、「何か怪しいかも」と思った時は、既に何らかの変化が起こっていることが多いようです。
一口に「不倫」と言っても、男女の愛憎の複雑さは、答えのない迷路のようなものです。男と女の数だけ、千差万別。怒り、嫉妬、恨み、悲しみ、憤り……など、様々な感情が渦巻き、一つとして同じものはありませんでした。
そこで、私が探偵の立場から目撃した、愛人に執着するあまり思いがけない手口を用いた不倫の例をご紹介したいと思います。

「怪しい」と思ったら9割は浮気している! 現役探偵が語る、大胆不敵な不倫の手口
探偵社に寄せられる依頼の7割超は「不倫調査」――総合探偵社MR代表・岡田真弓氏はそう語る。コロナ禍であっても冷めやらぬ不倫の驚くべき手口、ターゲットを追う探偵の執念について、このたび3刷重版が決定した同氏のベストセラー『探偵の現場』(角川新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。岡田氏に取材した「2022年コロナ不倫最新事情」はこちら
「疑わしい」と思った結果、9割が実際に不倫していた
確信する妻、尻尾を出さない夫
依頼者は夫に不倫関係の女性がいることを確信していた。ただし、それは妻の第六感であり、確たる証拠も気配も露ほども掴めずにいたのである。
そこで最後の頼みの綱と思って弊社に調査依頼を寄せてきたのだが、最初のヒアリングで「夫は絶対浮気しています。それは確信しているのですが、いつどこで、どんな女ということまではまったく見当もつきません」と語っていた。
しかし、悲壮感はなく、夫の不倫を是が非でも突き止めたいという強い意志が感じられ、なんとなくそれを楽しもうとしている節も垣間見られた。探偵との打ち合わせでも、依頼者はとても協力的で、まずは事前チェックをしてみようとの提案も二つ返事で引き受けてくれたのである。
数日後、依頼者から連絡があった。夫の行動を正確に記録したところ、平日は定時に帰宅し、週末だけ趣味のランニングに1時間ほど出掛けていくのみ。たまに休みの日は、友人に会って来ると言って出掛けるのだが、2時間ほどで帰宅。「駅前の喫茶店で話してきたよ」と、不倫をする時間はなさそうな状況であった。
スマホのメールもロックがかけられて確認できず。また怪しい人からの電話やこそこそ話している姿も目撃していないという。しかし妻は浮気を信じて疑わない。
「だって事前チェックに書いてあったように、夜の営みをこちらから求めても拒否をするようになりましたし、外から帰ってくるとすぐにシャワーを浴びるんです。キーホルダーにも私の知らないカギがありました。やっぱり怪しいんです」
「妻の勘違い?」から一転、突き止めた死角
そこまで言うのならばと、早速、探偵が自宅マンションに張り込み、夫の不倫を突き止めることになった。幸い妻が親戚の法事で、週末に一泊二日、家を留守にするという。子どもはすでに独立していたので、その間、家には不倫が疑われる夫ひとりとなる。
本当に不倫をしているのならば、絶対に動き出すはずだ。探偵たちは、依頼者のマンション前に陣取り、夫が不倫相手のもとへいそいそと出掛ける様子を待ち構えていた。
ところが、自宅から夫が出てきたのは、土曜日の夕方、スーパーへの買い物と、日曜日の午後、コンビニに出掛けただけで、後は自宅にこもりっきりだったのだ。まさに完全無欠の夫の休日を、探偵たちは見学していただけで終わってしまった。
「これは奥さんの勘違いかも……」と、探偵たちはそんな認識で一致していた。
しかし、どうしても気になるのが、妻が言っていた事前チェックにぴったりはまる項目だ。SEXの拒否、帰宅してすぐにシャワー、キーホルダーの見知らぬカギ。もう少し妻の第六感を尊重し、事前チェックで考えられる仮説を推理してみることになった。何時間ものディスカッションの末、行き着いた答えは実に意外なものだった。
妻が言うように、夫は限りなくクロに近いグレー。しかし帰宅時間は一定。出掛ける場合も短時間で帰って来る。これらの点と点をつなげれば、考えられる答えは……。
「愛人はすぐに近くにいる!」
すぐ隣にいた愛人
探偵たちはすぐさまマンションの入口で待機し、帰宅した夫と同じエレベーターに乗った。夫にはこちらが探偵だとはバレてはいない。
降りたのは自宅があるフロア。ここまでは問題ない。探偵は夫が降りると同時にオープンボタンを押し、夫の後からそっと出る。エレベーターフロアの陰から見張っていると、なんと夫は自宅前を通り過ぎ、そこから2軒先の部屋の玄関を、慣れた手つきで手持ちのカギを使って入って行くではないか。一体、どういうことなのだろうか?
中に入ったことを確認。後日、そこに住んでいる人物の特定に成功した。やはり推理した通り、その部屋の住人は30代後半の独身OLであった。夫は二人の関係がバレないように思案したあげく、自宅の側に彼女を引っ越しさせていたのだ。
同じマンション、同じフロアに不倫相手を住まわせれば、短時間でも逢瀬を楽しむことができ、いざという時にはすぐに帰れるメリットもある。
夫の計算しつくした不倫実態に、妻もあ然。その後、お互いの親族を交えて話し合った結果、夫は愛人と手を切り、妻のためにもう一度心を入れ替えて夫婦関係の継続を選択した。「妻の妄想」と早計に判断するのではく、事前チェックが明らかに怪しく、依頼者が確信している場合は、とことん突き詰めることの重要さを改めて気づかされた事案だった。
写真:Alamy/アフロ
探偵の現場
岡田真弓

2020年2月8日発売
968円(税込)
新書判/232ページ
9784040823164
相談件数No.1は「不倫」! 売り上げ日本一の探偵社が明かす不倫の実態
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