<ゆるりまい 選>
“心の状態が上向きになるにつれて、部屋が片付いてくるプロセスも描かれている”

実は大掃除のベストシーズン? 汚部屋を脱した作家たちが選ぶ、GWに「片付けがしたくなる本」5冊
大掃除といえば年末のイメージだが、春から初夏こそ気候もほど良くて、大掃除にはうってつけのシーズンと言えるだろう。ハウツー本を読んで準備するのもいいけれど、掃除に大切なのは技術よりも心構え。モチベーションを高めてくれる本をその道の“プロ”に教えてもらおう。
『健康で文化的な最低限度の生活』 (柏木ハルコ/小学館)

『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載中。単行本は現在11巻まで刊行
漫画家・イラストレーターのゆるりまいさんは「捨て変態」を自称するほどモノが少ない生活を送るミニマリストだ。
代表作のコミックエッセイ『わたしのウチには、なんにもない。』(KADOKAWA)シリーズには、かつて汚部屋の住人だったゆるりまいさんが、現在のミニマムな暮らしにたどり着くまでの紆余曲折が描かれている。シリーズ累計20万部を超えるヒットで、ドラマ化もされた。
そんなゆるりまいさんが、すっきりと無駄のないライフスタイルを維持するのに影響を受けたというのが、漫画『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ/小学館)である。ゆるりまいさんは、こう説明する。
「読めば少しでもきれいにしようという気持ちを高めてくれます。区役所に勤める主人公の義経えみるが、新米ケースワーカーとしてさまざまな生活保護受給者と接する中、それぞれの人が抱える問題に直面し、成長していく人間ドラマです。
アルコール依存症やネグレクトなどの背景がある登場人物の部屋のリアルな描写が胸に迫ります。物語のメインではないですが、私はそんな部屋の描き方に注目しました。そして、彼らの心の状態が上向きになるにつれて、部屋が少しずつ片付いてくるプロセスも描かれていきます。
私も自分自身を振り返ってみて、部屋をちょっとでもきれいにすれば、いくらか心がラクになった経験があります。部屋の状態は心のバロメーターです。週末や連休に掃除をするなら、家中全部!と意気込むよりも、まずは目につくところから少しだけでも。最初の一歩を踏み出すつもりでやってみると長続きしそうですね」
『暮らしのおへそ』 (主婦と生活社)
<ゆるりまい 選>
“自分なりの片付けの基準が見えてくる”

『暮らしのおへそ』最新号「Vol.33 習慣には、明日を変える力がある」
ゆるりまいさんがおすすめするもう一冊は、『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)。年2回発行されているムック本で、女優や料理家、デザイナー、主婦らの多種多様な暮らしぶりを、部屋の写真とインタビューで紹介している。
「昔から好きで、よく手に取っています。私は極端にモノを減らして暮らしていますが、この本に掲載されている部屋はそうとは限らない。たとえモノが多くても、愛着があり、手入れされているのは素敵だなと思います。
部屋を片付ける、掃除する……、片づいた部屋の正解は必ずしもひとつじゃない。自分だけの答えがあっていいんですよね。好きなものに囲まれて暮らしたいと考えている人は、ページをめくっていくと参考になる部屋が見つかり、自分なりの片付けの基準が見えてくるのではないでしょうか」
『徒然草』 (吉田兼好/岩波文庫)
<越智月子 選>
“モノへの執着は捨て、思い出だけを胸に収めていこうと思える”

『枕草子』『方丈記』と並び、日本三大随筆の一つと言われる「徒然草」
2021年に刊行された小説『片をつける』(ポプラ社)。ひょんなことからマンションの隣人の老婆、八重の汚れた部屋を片付けることになった独身女性の阿紗。少しずつ整う暮らしの中で、年齢の離れた二人の心情や人生のステージが変化していくストーリーだ。片付けのノウハウと共に暮らしを整えるとはどういうことかが、優しい筆致で綴られている。著者の越智月子さんは、本作を書きながら断捨離をし、自らの部屋も徹底的に片づけたという。
「『片をつける』を書くからには、モノに溢れる自分の部屋も片をつけなければ、という思いにいたりまして。収納用具をそろえるとかえってモノが増え、掃除道具を買い込むと買い置きがたくさん出てしまう……と幾多の掃除の失敗あるあるを経まして(笑)、2年前のゴールデンウィークからすっきり片付いた状態をキープしております。
部屋の四隅に物を置かない、背の高い家具を置かない、食事と仕事のとき以外はテーブルの上にモノを置かないといった技術的なこともありますが、片付けの前にまず整えたいのがやっぱり心です」
そう語る越智さんの推薦するのが、鎌倉時代に書かれた随筆の名作『徒然草』(吉田兼好/岩波文庫ほか)である。
「心を整えるのに、意外にも参考になる一冊です。『賤(いや)しげなるもの居たるあたりに調度の多き』(第72段)、『身死して財(たから)残る事は、智者のせざるところなり』(第140段)などを読むと、質素な暮らしぶりの潔さが描かれていて自分の物欲がいい感じにスーッと消えていく。モノへの執着は捨て、思い出だけを胸に収めていこうと思えてきます」
『高峰秀子の捨てられない荷物』 (斎藤明美/ちくま文庫)
<越智月子 選>
“暮らしを整えることは、背負ってきた有形無形の荷物を見直していくこと”

兼好法師を敬愛していたという昭和の大女優、高峰秀子の養女である斎藤明美が書いた『高峰秀子の捨てられない荷物』(ちくま文庫ほか)も、片付けの心構えを学べる本だと越智さんは語る。
「なさぬ仲の母親との関係、親族とのしがらみ、やりたくなかった女優業、大邸宅やありあまる家財道具……、長い間背負ってきたたくさんの荷物を一つひとつ片付けていく潔さが描かれています。一見、断捨離とは関係なさそうだけど、暮らしを整えていくことは、これまで自分が背負ってきた有形無形の荷物を見直していくことだと思うんです。モノと一緒に心も整えるというのか。そういう意味でも断捨離前にぜひ読んでもらいたい本です」
『るきさん』 (高野文子/筑摩書房)
<わたなべぽん 選>
“シンプルに豊かに生きるって素敵だと教えてくれる”

雑誌連載の全57話が単行本、文庫化された
『ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました』(KADOKAWA)は、一念発起し汚い部屋を脱出した実体験をつづったコミックエッセイ。その著者のわたなべぽんさんが、強く勧めるのが、漫画『るきさん』(高野文子/筑摩書房)。この作品は1988〜1992年に雑誌『Hanako』で連載されていた。バブル期でありながら、モノやお金にとらわれず、素朴な日常を送る独身女性のるきさんをユーモラスに描いている。
「『るきさん』を知ったのは、今から約20年前。当時、私は古本屋の店長をしていたんです。中古本やアダルトビデオなど、職場はとにかくモノだらけ。家に帰ったら帰ったでまた散らかっていて。そんな暮らしの中で手に取ったこの作品はまったくの別世界でした。
主人公のるきさんは、医療保険の請求書を処理する仕事を在宅でやっているんですが、ひと月分の仕事を1週間で終わらせ、あとは気ままに暮らしています。作中で描かれる、るきさんの部屋には布団と黒電話くらいで、余計なモノが一切ない。
一方で、親友のえつこさんは今でいう意識高い系。この対照的な二人がそれぞれ自分らしくありながら友人関係を築いていて、人間関係もすっきり。私もこんなふうに暮らしたい!と何度も読み返し、友人に贈ったりもしています。
物質的にも精神的にも身軽でいること、それによって自分にとって何が大切かがはっきりとわかること、などシンプルに豊かに生きるって素敵だと教えてくれる漫画ですね」
ちなみに、わたなべぽんさんにとって毎年5月は掃除月間だそう。
「年末の大掃除は水が冷たく、洗ったものも乾きにくいので、暖かい5月の頃に取り組むのがおすすめです。月の初めの連休に掃除や片付けを始めて、そのままひと月かけて少しずつ進めていきます。すると、1年のあと半分、きれいに整った状態で頑張ろうと思えるんです」
一年の計はゴールデンウィークにあり? ここで紹介された本を読みながら、まずは目の前のちょっとした整理整頓から始めてみてはいかが。
取材・文/小林 悟