ヒップホップ好きと料理好き、どちらも満足させる翻訳に苦戦

――翻訳のご依頼を受けたときは原書をご存じでしたか?

原書がアメリカで発売されたときから知っていて面白そうな本だなと思っていたら、偶然、日本版の翻訳をご依頼いただきました。私がレコード会社に勤めていたとき、スヌープや彼がオーナーを務めるデス・ロウ・レコードの作品のプロモーションに携わっていて、スヌープにインタビューをしたこともあり縁を感じていて。それに私自身が料理もすごく好きで、家庭でもアメリカ料理をずっと作ってきたんです。これはなんとしてでもお引き受けしなければと思いました。

――KANAさんは、アメリカに住んでいたことはあったのでしょうか?

大学生の2年間と、レコード会社を辞めた後に一時期行っていたのみです。ただ、私はシングルマザーとして、アメリカの黒人との子どもを日本で産んで育ててきました。アメリカにルーツを持つ自分の子どもに食を通じて文化を知ってもらいたいという思いがあって、感謝祭やクリスマスなど、アメリカの子どもが経験する季節のイベントに合わせて料理を作ってきたんです。

クリスマスには一緒にチョコチップクッキーとジンジャークッキーを作って、サンタさんのためにクッキーとミルクを置いておくとか、そういうことを20年やってきたものですから、日本にない材料でアメリカ料理を作る方法が身についてきました。

なぜスヌープ・ドッグの料理は胸を熱くするのか?――規格外のレシピ本『スヌープ・ドッグのお料理教室』(前編)_a
「俺のダチのバーナーのクッキーがベストだってのは誰もが知ってる事実。まあ、そのクッキーってのは<ムシャムシャ>するんじゃなく、<モクモク>するほうだけどな」(本文引用)

――この本を翻訳するのはまさにKANAさんしかいなかったですね! とはいえ、翻訳するにあたってハードルに感じたところはなかったですか?

ヒップホップ好きだけではなく、レシピ本として楽しみたい人も手にする本だから、ヒップホップのノリのまま訳すと、お料理好きで手に取ってくれた読者を置いていってしまうと思いました。写真も少ないですから、味や作り方をちゃんと理解してもらう必要もあって。

ヒップホップ色を強くしすぎず、スヌープらしさを伝える、その中間を見つけていく作業が難しかったです。それに、この翻訳のご依頼を受けてすぐにコロナ禍に突入してしまって。私自身、仕事がキャンセルになったりして目の前のことに追われていたし、この本のレシピはみんなで食べる料理が多いのに、状況的にはみんなで集まることができなくて。