「いる? ここにスーツ持って降り立ってる奴!」
雪が降り積もる北海道の大自然。その絶景スポットまでスーツを持って歩いていき、寒空の下、その場で着替えて漫才をする。それが北海道文化放送で4回限定(2月25日~3月18日)で放送されたローカル番組『ZEKKEI NETA CLUB』だ。漫才を披露するのは、芸人から憧れられる実力派芸人の囲碁将棋。彼らは、雪をバックに硫黄の噴煙が「発煙筒」のように立ち込める硫黄山や、12月初旬には完全結氷し、氷上を歩けるようになる足寄町の湖「オンネトー」を訪れ、ベスト・サンパチマイク・スポットを探すのだ。

いま見るべきローカルテレビ番組はどれだ? ネット時代のネクスト『水曜どうでしょう』たち
世はまさに大配信時代。ネット上でテレビ番組を視聴できるようになり、これまで注目されなかったローカルテレビ番組にもスポットが当たりはじめている。いま注目すべきローカル番組はこれだ!
北海道を舞台に繰り広げられる大自然ネタ番組

ZEKKEI NETA CLUB ©️UHB
道中には大喜利ポイントも用意され、大喜利合戦にもなる。披露する漫才のネタは、囲碁将棋をリスペクトするオズワルドやマヂカルラブリーがチョイスしたものから抽選で決める。例えば野田クリスタルは「涙そうそう」をチョイス。「お互いのキャラクターの素材そのものが出ている。ネタのシステムではなく、囲碁将棋さん自体を楽しんでいるネタ」と、彼らからの漫才評が知れるのも嬉しい。
大自然をステージにした漫才はやはり新鮮。北海道ならではの番組だといえるだろう。
テレビ番組の地方格差
テレビっ子にとってテレビの“地域格差”は深刻で理不尽な問題だった。ある地域に住んでいるとテレビ東京系列の番組を丸々見ることができない、噂に聞くあの深夜番組が何週も遅れて放送される、上京したら地元の番組が見られなくなった……と。
そんな状況が限定的ではあるものの解消されつつある。TVerなどの配信が充実してきたからだ。
第一義的には見逃した時の救済措置という意味合いが強かったが、ローカル局も積極的に配信を行うようになったことで、各地方の番組を全国で見ることができるようになった。
かつてローカル番組が全国的な知名度や人気を得ることは、『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)のような一部の例外を除き困難だった。だが、現在は違う。その筆頭が『相席食堂』(朝日放送テレビ)や『千原ジュニアの座王』(関西テレビ)だろう。この2番組は、配信で見た全国の視聴者から多くの支持を受け、全国ネットの特番が放送されるまでになった。
冒頭に紹介した『ZEKKEI NETA CLUB』も配信があったからこそ、関東に住む筆者も見ることができた番組だ。4話一挙配信(TVer、FOD、GYAO!)は4月2日までで終了してしまったが、5月4日にオンラインライブが予定されているため、追加配信等、何らかの動きがあるのではないか。シーズン2実現にも期待したい。
ローカルならではの魅力がたっぷり
同様にシーズン2が期待されるのは、同じく回数限定で放送された福島中央テレビの『サクマ&ピース』だ。タイトルが示す通り、元テレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行とアルコ&ピース・平子祐希の街ブラ番組だ。佐久間といえば『ゴッドタン』、『あちこちオードリー』、『ウレロ』シリーズ(いずれもテレビ東京)などを手掛けてきたスタープロデューサー。近年ではテレビ東京の社員でありながらニッポン放送の『オールナイトニッポン0』のパーソナリティも務めるなど、局や媒体の枠に囚われない活躍を見せていた。
昨年3月末をもってテレビ東京を退社し、フリーになった佐久間にオファーを送ったのがこの番組だったという。最初は「一緒に番組を作りましょう」という依頼だと思ったが、まさかの出演する側だったのだ。佐久間と平子の2人はともに福島県いわき市出身。だからこそ冗談のような座組が実現したローカル番組らしいローカル番組だ。

サクマ&ピース ©福島中央テレビ
ロケは10時間で15軒を回る強行軍。これもローカルらしい。2人はそれに文句を言いつつ、地元ローカルトークや思い出話に花を咲かせたり、たまたま学生時代の友人に遭遇したりしながら、地元の魅力やローカル局のちょっとダメな部分を愛情たっぷりにイジっていく。一方で、佐久間が生まれて初めての食レポに四苦八苦する様子も楽しい。このときばかりは、いつもは佐久間に“演出される側”の平子が指導する立場に変わる。地方ならではのローカルな魅力と全国区バラエティ的な視点がバランス良く融合した番組だ。番組は終了したものの放送地域も徐々に拡大し、現在はアマゾン・プライムでも配信が開始されている。
地元に凱旋する全国区タレントたち
こうした全国区のタレントが出身地のローカル局で自分たちのやりたい番組を持つというのは、ローカル番組のひとつの醍醐味だ。
その筆頭といえるのが北海道放送でタカアンドトシがMCを務める『ジンギス談』だろう。ゲストを招いてのシンプルなトーク番組だが、そのシンプルさゆえ、タカトシの2人も力が抜けており、ゲストもその気兼ねない雰囲気に思わず本音を吐露することもしばしば。時間をかけてトークするため、普段のトークでは端折るようなエピソードも語られる。
同じく、じっくり芸人の話を聞くローカル番組といえば『やすとものいたって真剣です』(朝日放送テレビ)が白眉だ。「ポスト上沼恵美子」「ポスト・ハイヒール」などと言われるほどの貫禄で、関西では絶大な存在感を示す海原やすよ ともこがMCを務めるこの番組は、『あちこちオードリー』と並び、深い芸論が聞ける番組だ。
たとえば先日放送された狩野英孝の回などは、この番組の良さがよく出ていた。トーク番組などでは通常、言い間違えをツッコまれたりしてオチまで言わせてもらえない狩野のトークをじっくり聞き、彼の実家を紹介するVTRでも不必要なおふざけはなし。まっすぐでピュアな「愛される天才」狩野英孝に真正面から迫っていた。

やすとものいたって真剣です ©ABCテレビ
福岡放送で不定期に放送されている『福岡人志、 松本×黒瀬アドリブドライブ』のように、大御所タレントが気ままに楽しんでいるように見える番組もローカル番組ならではだ。
中京テレビの『太田上田』もこの代表だろう。爆笑問題・太田とくりぃむしちゅー・上田がただただ喋りまくるだけの番組だ。だが、何しろ若手時代からの盟友である2人。どんな話になっても話題は尽きず、息のあったトークが展開されていく。
一方で、若手の挑戦枠としての側面もローカル番組にはある。いち早く霜降り明星を看板に据えた『霜降り明星のあてみなげ』を立ち上げたのは静岡朝日テレビだったし、蛙亭・中野の地元・岡山のRSK山陽放送では『蛙亭のかえる天国』が放送されている。テレビ神奈川の『かがやけ!ミラクルボーイズ 』は、若手コント師の雄・かが屋が架空の人気YouTuber「ミラクルボーイズ」に扮して神奈川の様々なスポットを巡る、コントと街ブラを融合させたような奇妙な番組。まさに挑戦枠に相応しい。
全国に羽ばたくローカル番組
そして、ローカル番組最大の魅力のひとつといって過言ではないのが、全国的には無名ともいえる、いわゆるローカルタレントが活躍することだ。こうした番組は数多あるが、ひとつだけ挙げるなら福岡放送の『ナンデモ特命係 発見らくちゃく!』を紹介したい。
番組のMCはパラシュート部隊・斉藤優。「あなたの願い叶えます!」というキャッチフレーズのもと、地元の人たちの願いを叶えていく番組だ。特に記憶に残っているのは、聴力を奪われ、自分の足で歩くこともできず、寝返りを打っただけで脱臼してしまう難病「エーラス・ダンロス症候群」に罹った女性の回。死にたいという思いから彼女を救ったバンドに会いに行くために、彼女を大阪まで連れて行こうというもの。病気に苦しみながらも底抜けに明るい彼女に斉藤はもちろん、スタッフたちも涙を堪えきれず寄り添っていく姿が今でも忘れられない。
優れたローカル番組は全国各地にたくさんある。それを配信で見られるようになったのは、本当に素晴らしいことだ。視聴者として嬉しいのはもちろん、出演者や制作者側にとっても視聴機会の増加は大きなモチベーションに繋がり、自ずとクオリティも上がっていくはずだ。そんな中で、全国ネット・キー局でもできる番組ではなく、ローカル局ならではの魅力を持った番組こそが、これからさらに求められていくに違いない。