北の離島に住む若松登美⼦(田中裕子)は、30年前に失踪した夫の帰りを今も待ち続けていた。ある日、登美子は、2年前に夫が失踪したという田村奈美(尾野真千子)と出会う。「拉致されたのかもしれない」と話す奈美に力を貸す登美子だったが、街中で偶然、奈美の夫・洋司(安藤政信)を見つける——。

日本の年間失踪者は8万人。『千夜、一夜』久保田直監督に聞く「消える人」と「待つ人」の心理_1
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警視庁公表の「令和3年における行方不明者の状況」によると、行方不明届が出された人数は7万9218人。統計が残る1956年以来、常に年間8万人近い行方不明者がいるという。この「失踪者」に注目したのが、テレビドキュメンタリーで数々の賞に輝き、初の劇映画『家路』(2014年)がベルリン国際映画祭に出品された久保田直監督だ。人はなぜ、ある日突然消えるのか。帰りを待つ人の心理とは。劇映画第2作『千夜、一夜』の制作背景や込めた想いを聞いた。

なぜ失踪したくなるのか、どれだけ待てるのか

——「失踪」という題材に興味を持たれたきっかけは?

久保田直(以下、同) 20年くらい前に、特定失踪者(北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者)の顔写真が並んだポスターが全国に張り出されたことがあって、強烈に印象に残っていました。そして『家路』が公開されてすぐの頃、ある方とお話していたときに、「どうやらあの中の何人かは、自身で家族に電話をして、『自分は拉致されたわけではない』と伝えたらしい」と聞いて。それはなかなか、すごいことだなと思ったんです。

日本の年間失踪者は8万人。『千夜、一夜』久保田直監督に聞く「消える人」と「待つ人」の心理_2
久保田直監督

——すごいこと、というのは?

家族は、ある日突然いなくなった理由がわからない。だから藁(わら)にもすがる思いで、「拉致されたに違いない」と考えていたはず。それなのに突然本人から電話があって、「そうじゃない」と伝えられるのは、相当ショックだろうなと。

——自分の意志で消えたということですからね。

そのときに気になったのは、「人は、なぜ失踪したくなるのか」ということ。自分自身を振り返ってみても、「自分はここにいていいのか」と考えたり、「ここから消えていなくなりたい」という感覚になったことはあるんです。その感覚は、意外と多くの人にあるのではないか——。そう考えたときに、これはもしかしたら普遍的なテーマになり得るかもしれないなと思いました。

——主人公を、夫の帰りを待ち続ける女性(登美子)にしたのは?

最初はいなくなった側に興味があったんですけど、「電話の後、家族はどんな気持ちで過ごしたんだろう」と思い始めて。そもそも家族は、いなくなったことをどう受け止めているのか。そして、どれだけ待ち続けることができるのか。「いなくなる」「いなくなられてしまう」という関係性で何かできないかと脚本家の青木研次さん(『家路』、『いつか読書する日』)に相談して企画が始まりました。

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