――原作小説は映像が目に浮かぶような描写が印象的でした。執筆段階から、映像化を想定していましたか?
元々僕は脚本家なので、小説を書くことになるとはまったく思っていなかったんです。たまたま縁あって『桜のような僕の恋人』を書かせていただいたので、いつか何らかの形で映像になればいいなとは思っていました。
ただ、今回は映画の脚本を担当したわけではなかったので、自分で脚本を書いたものが映像化されるときとはちょっと違う楽しさがありましたね。
主演の中島健人さん、松本穂香さんのお芝居や映像表現など、自分が小説執筆の段階で想像していたものと非常に近い部分もありましたし、僕の想像を超えて「こんなふうに表現してくださるんだ」と驚くこともありました。
いろんな方のアイデアや思いを込めていただいたので、出来上がりに関しては大満足しております。
(注)ネタバレ有り「推敲しながら泣いてしまう 」~Netflix映画『桜のような僕の恋人』原作者・宇山佳佑のアタマの中
現在Netflixで好評配信中の『桜のような僕の恋人』は、主演を務めたSexy Zoneの中島健人さんが大ファンを公言していた小説(集英社文庫刊)を原作に映画化されたもの。「泣ける」と大きな話題になった小説の執筆秘話を、著者の宇山佳佑さんに語っていただきました。

主演/中島健人
“生きる速度が違う二人の恋物語”は切ないかもな、と、大学の廊下を歩きながら思いつきました

原作者の宇山佳佑氏
――想像を超えて表現されていた部分とは?(以下、ネタバレあり)
物語のキーになるのは、ヒロインの美咲が人よりも早く老いてしまうこと。僕自身も、映像化する上で肝になる部分だと思っていました。小説では読んだ人が脳内で想像するので、ある程度フィルターをかけたりぼやかすことができますが、映像となるとダイレクトに表現しなければいけません。
CGや特殊メイクなど最先端の技術を取り入れて表現していただいた部分は、本当にすごい映像だと思いました。
あとは桜ですね。撮影のタイミングでは桜が咲いていなかったのですが、完成した作品ではCGによって満開の桜が表現されていて驚きました。それに、晴人と美咲がデートをしているときに、二人のまわりを舞う桜の花びらの表現はとても美しかったです。
――小説のアイデアを思いついたのは、20歳の頃だとか?
元々は中学生の頃から脚本家になりたいと思っていたんです。当時は三谷幸喜さんのドラマとかが大好きで、コメディ作家になりたいと思っていたくらい。何を間違って恋愛を描くようになったのかわかりませんが(笑)、大学生の頃になんとなくお話を考えているなかで、“生きる速度が違う二人の恋物語”は切ないかもな、と大学の廊下を歩きながら思いつきました。
あと、物語終盤の肝となるシーンの情景が、ふと頭に浮かんだんです。そのシーンを描くにはどのように物語を紡いでゆけばいいかを考えながら、逆算して小説を書いていきました。

ヒロイン/松本穂香
パブロフの犬のように「このシーンが来るたびに泣く」みたいなことはあります(笑)
――原作も映画も涙を誘う切ない展開が印象的ですが、小説を書いている段階から「泣ける」ことを意識して書いていたのでしょうか?
基本的に僕は、自分がおもしろいと思うお話を書いているだけ。別に読者を「泣かせてやろう」なんてことはないんです(笑)。ただキザな言い方をすると、脚本家になりたいと思った中学生の頃の自分がこの物語を読んで心が動くかどうか。その1点を意識して書いている気がします。
泣けることが正しいとも思っていませんしね。読んでくださった方の心に引っかかる一文が書けたらいいなと思っています。
ただ、僕自身は推敲する中で何度も読み返すので、パブロフの犬のように「このシーンが来るたびに泣く」みたいなことはあります(笑)。自分自身が感動するものでなければ人の心を動かすことはできませんからね。自分の心や体が反応するかどうかも、感動する物語を書くための一つのバロメーターにしている気がします。
――『桜のような僕の恋人』以外にも、多くの恋愛小説を手がけていますが、作品を書く上で、こだわっていることは?
実は恋愛でお互いのことが好きとか嫌いとか、恋が成就するかどうかは意外と重要視していません。もちろん、作品を書くときは推進力として奇抜な設定を入れ込むこともありますが、それよりも大事なのは人間をしっかりと描くこと。恋愛を含め、登場人物たちが抱えている問題やトラウマをどう乗り越えるのか、どう克服したり受け入れたりするのかといった過程を丁寧に描くことで、物語が立ち上がってくる気がしています。
Netflix映画『桜のような僕の恋人』Netflixにて全世界独占配信中
【作品ページ】桜のような僕の恋人
撮影/石田壮一 取材・文/松山梢