『歴史劇画 大宰相』政治史としてはもちろん、昭和文化史としても読みごたえありすぎ!【マンガ編集者を唸らせるこのIPPON|浅田貴典】_a

政治史としてはもちろん、昭和文化史としても読みごたえありすぎ!

もはや説明不要の劇画家の大家である、故さいとう・たかを先生。まず頭にパッと浮かぶのは『ゴルゴ13』だと思いますが、その影に隠れたさまざまな功績や別の顔をご存じでしょうか。

例えば、マンガ制作の作業を分業化した、現在のプロダクション体制をいち早く確立したほか、編集者を説得して、それまで少ページ数が常識だった掲載ページを強引に増やさせたことで、ぐっと深みのある題材や幅広い世界観の作品を生み出すことに成功、現在の長編ストーリー連載や青年マンガの礎を築きました。マンガ史に多大な足跡を残してきたわけです。

今回紹介する『歴史劇画 大宰相』シリーズもその一つに挙げられるでしょう。昔の作家さんは、オリジナルも原作付きのものも隔てなくバンバン描いていたんですが、『大宰相』も、戸川猪佐夢の『小説吉田学校』を原作とした政治マンガ。戦後の吉田茂内閣誕生を皮切りに、移ろいゆく大きな政局・権力闘争のうねりをリアリティたっぷりに描き切っています。

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と同時に、横軸として、当時の世相や文化状況が丁寧に描かれることで、昭和という時代が圧倒的な情報量とともにすさまじい解像度で立ちのぼってくる。一大政治史としてはもちろん、戦後社会・文化史として読み込む楽しさがあります。今、中年世代以降の「学び直し」が盛んに叫ばれていますが、まさにこの『大宰相』シリーズは打ってつけです。

単純な権力闘争の図式ではなく、個人の信条や好悪が生々しく描かれ、率いる派閥をも巻き込み激しくぶつかり合い、時に深く睦み合う。その情感のグラデーションも、また素晴らしい。

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キャラクターも魅力的。中でも鳩山一郎、三木武吉、吉田茂のトライアングルは完璧。このキャラ性や関係性を別の設定に置き換えれば現代でも立派なブロマンスとして成立しそう(笑)。

『白い巨塔』は財前五郎と里見脩二のライバル関係にある二人の医師が繰り広げる、野望と愛憎が入り混じる人間ドラマですが、例えば、この3人で展開したらどうなるか? 2対1の対立構造がひょんなことで切り替わったり。想像しただけでもうたまらなく面白いと思うんですが…。

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『歴史劇画 大宰相』
さいとう・たかを 原作:戸川猪佐武
全10巻/講談社

戦後のGHQ占領下にある吉田茂内閣誕生から、1980年代の鈴木善幸内閣に至るまでの権力闘争の歴史を、日米安保や高度経済成長など、時代の移ろいとともに、克明に描き出す。

©さいとう・たかを/講談社


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