伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」を映画化した本作の脚本を最初に読んだときに、ブラピは大笑いして、パンデミックな世の中で必要なのはこういう笑いだ、と確信。
以前はブラピのスタントマンでもあった旧知のデヴィッド・リーチ監督(『デッドプール2』)のオファーを快諾したのだという。時速350キロの超高速列車内で、矢継ぎ早に繰り広げられる壮絶なバトルアクション。
この異常なシチュエーションに戸惑いながら、飄々とジョークを飛ばし、いずれもクセの強い殺し屋を相手に闘うレディバグがブラピの役どころだ。
気軽にふらりと外国からやってきた風貌のレディバグは、黒ぶちのメガネとダサいバケットハットを被った殺し屋だ。まるでピカピカのスターのオーラを消すかのように被ったそのバケットハットは、ブラピ自身のアイデアなのだそう。
歳を重ねて、いい具合に渋味を出しながらも、未だに肉体的な若さを保ち、なおかつ彼独特の茶目っ気を発揮するような本作の役柄が、ブラピにフィットしていると思った。
全てが完璧なヒーローではなくて、どこか抜け感があるところがブラピらしい。
銃を持つのが嫌いで、「怒りは理解力を下げるよ」と向かってくる殺し屋に諭し、女子高生のかっこうをした邪悪なプリンス(ジョーイ・キング)をコロッと信じ込む人の好い殺し屋のレディバグ。身に覚えがないのに命を狙われ、成り行き上闘っては、危機一髪で相手を倒してしまう。
対戦する10人の殺し屋のキャラが強烈なのに、主人公が軽いノリで、はちゃめちゃに闘いのコマを進めるのだから、もう笑うしかないのだ。

ブラピ円熟58歳。彼にしか演じられない、お茶目なニューヒーローにただ笑うしかない!
東京発、京都行きの超高速列車でブリーフケースを盗み、次の駅で降りるだけの簡単な仕事を請け負った殺し屋のレディバグ(ブラッド・ピット)。ところが次々と得体の知れない殺し屋が現れて、命からがらの死闘を繰り広げる羽目に。ベテランの域に入ったブラピ、分かってらっしゃる! 今、見たいのは、こういう純粋に笑える楽しい映画!
石川三千花のシネマのアレコレ vol.5 「ブレット・トレイン」

今、我々に必要な笑い!

トム・クルーズやジョニー・デップには無い魅力

全編を通してあり得ないほどの、あの手この手のアクションシーンはもちろん見ものだが、その合間にブラピが見せるスットボケたおかしさが最高だ。
超高速列車のトイレのシーンでは、日本のウォシュレットから噴き出すドライな風を顔に受けて、うっとりとロン毛をなびかせるブラピ。
または列車が激突する衝撃で横っ飛びになったときに、車内のポットが頭を直撃して変顔になるブラピ。
カメオ出演のAランクスターと交わすギャクなど、本人が楽しんで演じているのが伝わってくる。ブラピには、キャラクターに親しみやすさを持ち込むユーモアのセンスがあるので、コメディ作品との相性が本当にいいのだ。
登場する悪役は、我らが真田広之やアーロン・テイラー=ジョンソン、マイケル・シャノンなど、いずれも個性的なオールスターキャストだが、ブラピが絡むと、相手の特徴を存分に引き出し、かつ本人もお気軽なムードで自分を活かす、という高度なパフォーマンスにいつも感心してしまう。
思えば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』での、レオナルド・ディカプリオとのバディな関係の絶妙なケミストリーでも、そのことが顕著だった。彼はレオを食うこともなく、かといってその独特な抜け感を持って寄り添い、結果、自分をも活かしていた。
これが、トム・クルーズやジョニー・デップなら、そうはいかないだろう。相変わらずのスターのオーラを放ちながらも、人の好い殺し屋を演じて、観客を笑わせるブラピの魅力を改めて感じた。

『ブレット・トレイン』
原題:Bullet Train 上映時間:2時間6分/アメリカ・日本・スペイン
公開中/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給
監督:デヴィッド・リーチ 原作:伊坂幸太郎
出演:ブラッド・ピット アーロン・テイラー=ジョンソン 真田広之 他
https://www.bullettrain-movie.jp/

イラスト・文/石川三千花
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