ハリウッドではまだまだ女性監督が少ないという現実

一般に“エンパワーメント映画”と呼ばれるジャンルの定義は、実は人によってかなり幅がある。女性(あるいは性的マイノリティ)の権利拡大に積極的に寄与している作品、といった捉え方から、単純に“女性監督による作品”、あるいは“カッコいい女性主人公が活躍することで、女性を元気にしてくれる作品”と広義に捉える人も。ここでは、男性目線での女性像ではなく、女性たち自身の立場から、“自分たちが共感できる女性キャラクターを映画で示そうと試みた作品”とする。

そもそも、監督が女性である場合にだけ“女性監督による作品”とわざわざ強調されること自体、それがまだまだ少ないからだ。米アカデミー賞は今年で94回を数えるが、その歴史の中で、2017年の第89回まで女性が監督賞にノミネートされたのは『セブン・ビューティーズ』(1975)のリナ・ウェルトミューラー、『ピアノ・レッスン』(1993)のジェーン・カンピオン、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)のソフィア・コッポラ、『ハート・ロッカー』(2008)のキャスリン・ビグローの4人のみ。受賞したのはビグローだけだった。

“エンパワーメント映画”の元祖!50年前の伝説の映画『WANDA /ワンダ』_1
『ノマドランド』で作品賞、監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督。フランシス・マクドーマンドに主演女優賞ももたらした。
代表撮影/ロイター/アフロ

だが、直近の5年間では、『レディ・バード』(2017)のグレタ・ガーウィグ、『ノマドランド』(2020)のクロエ・ジャオ、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)のエメラルド・フェネル、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)のジェーン・カンピオンの4人がノミネート。ジャオとカンピオンのふたりが2年連続で受賞しているのだから、時代は確実に変わってきてはいる。

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でアカデミー監督賞を受賞したジェーン・カンピオン監督
AP/アフロ

女性にとって演じたい役も演じさせたい役も少なすぎる

女優として一時代を画した人がプロデュースに進出した例だと、古くはサイレント時代のメアリー・ピックフォードが女優引退後にプロデューサーとなっているし、1972年に自らのプロダクションを設立し、『愛のイエントル』(1983)以降監督にも進出したバーブラ・ストライサンドなど先駆者がいた。

近年だと、リース・ウィザースプーンが「女性の役柄に幅がないから」という理由で製作会社を立ち上げてTVシリーズ『ビッグ・リトル・ライズ』(2017)を製作・主演し、エミー賞8部門、ゴールデングローブ賞4部門受賞と気を吐いている。注目の女性監督ジョージー・ルーク監督の『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018)でエリザベス一世を演じたマーゴット・ロビーもまた、自ら『ドリームランド』(2019)をプロデュース。強盗殺人で指名手配中の主人公を演じ、好意的な批評を勝ち取った。

だが、他人の企画では本当に演じたい役が巡ってこないという理由で、女優が自身で製作・脚本・監督・主演を兼ねて映画を作って先駆けといえるのは、『WANDA /ワンダ』(1970)であるに違いない。ペンシルヴェニア州の炭鉱町の主婦だった主人公が、『ドリームランド』のヒロインと同様、銀行強盗に加担することになるという、“放浪する女性”を描いた幻の傑作だ。