おかげさまで創刊から3週間を過ぎた集英社オンライン。
怒涛のごとく過ぎた3週間。
安静時心拍数の平均が65から74に上がってるよとApple Watchに言われてしまった3週間……。
ベリーハードです、集英社オンライン。
与太話は置いておいて、実はシューオン(集英社オンライン)を立ち上げるにあたって、前回お話しした「自社作品とコンテンツを読みまくること」以外に、さらにもうひとつ注力したことがありました。
人気ウェブメディア編集長たちからいただいた金言〜編集者よ、恥を捨て前に出よう
集英社オンライン統括編集長の、お仕事メイン、ときどき日常な、ブログともいえない雑文集。
せっかち編集長のEMANON DAYS #2
ウェブメディアはペーパーのワンランク下?
それは他メディアの編集長、プロデューサーたちにとにかく話を聞きに行くこと。
「えっ、ライバルに話を聞きに行っても本当のところは教えてくれないんじゃないの?」と思いますよね。これがどうして、みなさん、とても親切にいろいろなことを教えてくださいました。
もちろん、すごーく大事な数字のこととか、すんごいスクープのネタ元なんかはお話しないのでしょうけど、それはこちらの聞きたい、知りたいことでもないので、モーマンタイです。
砲撃のようなスクープでおなじみのあそことか、経済バリバリのあちらとか、暮らしまわりのトレンド連発されてるこちらとか、元祖ニュースアプリを立ち上げたあの方とかこの方とか……みなさま、お忙しい中お時間割いていただき、本当に感謝です。

今は毎日スマホとPCとにらめっこ。ブルーライトカットの眼鏡を新調
「出版社の中では、ウェブメディアってのはなんとなくワンランク下に思われてるんですよ(笑)。やっぱり紙があってこそだろ、って。そのせいか僕たちウェブメディアの編集同士って、版元を越えてみんな仲がいいんです。俺たちどうせウェブだからな、って(笑)。だから志沢さんもどんどんいろんなところに話を聞きに行ったほうがいいですよ。みんな気軽に話してくれますから。これは間違いないです! 互いにシンパシー持ってるし、苦労もしてるから(笑)」
とアドバイスをくださったのは、今をときめく報道メディアの編集長。
いや、いったいそちらさまのどこがワンランク下……けれど、そんな自虐半分、本音半分のそのアドバイスに素直にしたがい、えいや!とあちこちに体当たりで臨みました。
で、みなさま、ホントにたくさんお話ししてくださいました。
編集長はメディアの顔であるべき?
そのなかのアドバイスにあったひとつがこちら。
「あとはね、編集長はメディアの顔なんだから、これからはどんどん前に表に出ていくこと。とくにウェブメディアはそうだよ」。
ええええ、そんな……。
と、ここでこの雑文シリーズのタイトルについて言及いたします。
タイトルにある「EMANON DAYS」。
このEMANONはNO NAME、つまり〝名無し″という意味の英語を反対から並べたもの、と言われています。欧米の言葉遊びから生まれたともされていますが、多分スラングというか造語というか、そんなものですね。
私がこの言葉を初めて知ったのはサザンオールスターズの「綺麗」というアルバムに収録されていた『EMANON』というナンバーからでした。
当時はその語源など知る由もなく、女の人の名前なのかなー、とトンチンカンな認識で聴いていのですが、とにかくこの曲が、そしてEMANONという言葉の響きが大好きでした。
ひと夏の恋の終わりをさらりと歌ったオシャレすぎるこの曲にすっかり心奪われた高校生の自分……どうして桑田佳祐は好きな女性のことを〝可愛い花のよな″と歌ってくれるんだろうとうっとり……いや、そこじゃなくて、その後〝EMANON″の本当の意味を、社会人になってだいぶたってから知るにいたり、ますますこの言葉が好きになったのです。
EMANON……NO NAME。
だってそれは編集者の座右の銘にも値する言葉だから。
ときに、みなさんは編集者、エディターという職業にどんなイメージを持っていますか?
かつてトレンディドラマで人気女優が演じる編集者は、テレビの中でいつも大きなブランドバッグを颯爽と肩にかけ、朝から晩まで大忙し、でもなぜか髪もメイクも乱れることなくピンヒールで街を闊歩し、せっせと恋もしてたんですけど……ま、そこまで素敵なイメージは持たれてないとしても、ときどき、カッコいい、とか、憧れます、と言われることはございます、畏れ多くも。
ですが、私たち編集者の多くは己のことを〝黒子″〝裏方″〝縁の下の力持ち″というようにとらえているのではないでしょうか。そう、NO NAME、名無しの権兵衛さん。
編集者とひと言でいっても、雑誌、書籍、マンガ、グラビア、ウェブ……担当するメディアやコンテンツが違えば仕事内容は相当違うものだし、会社が違えばまた何かと違うものなんですが、基本的にその根底にあるスピリットは「才能ある人(クリエイター)のサポートを全力でする」ことではないかと私は思っています。
作家が作品を書くときに必要な資料を探しまくって、それを使いやすい形にして届ける。
カメラマンがいい写真を撮れそうなロケーションを探す。
ヘアメイクのインスパイアになるような新製品情報を伝える。
グラフィックデザイナーがデザインを作りやすいよう、的確なコンテを作る。
クライアントに納得してもらえるようなプランを提案する。
……といった実務ももちろんですが、現場スタッフが喜んでくれるおいしいロケ弁、気の利いた手土産、居心地のいい美味なレストラン情報をストックしておくことや、時事ネタや新刊情報、ネットの雑談といった些末なことをとりまとめておくことも非常に大事なことだったり。
そして、こういった作業のどれもが、特別な資格や技術がいるわけではないけれど、じゃあ誰もが出来ることなのか、というとやはりちょっと違うのかな、と思うのです。
骨身を惜しまないことが喜びへとつながる
以前仕事でご一緒した有名なネイリストの方がおっしゃっていました。
「いいネイリストになれる子はね、〝私、ネイルもアートも大好きでこんなに上手にできるんです″という子じゃないの。他人をキレイにしてあげることに大きな喜びを感じられる子なの」
くーーーっ。名言、ここにあり。
編集者の仕事にもちょっと共通するものがあります。
なので、就活中の学生さんや編集志望の方に
「編集者になりたいんですが、必要なのはどんなことですか?」
と聞かれたら、私は必ず
「表舞台に立つ人のために骨身を惜しまず尽くせること」
と答えています。
たくさん本を読んでいるとか、文章を書くのが好きとか、雑誌や漫画が死ぬほど好き、などもとても大切で有利な資質です。
でも、ただ文章を書くことだけが好きなら、作家やコラムニスト、ライターをめざしたほうがいいし、本をたくさん読むことを仕事のメインにしたいなら書評家をめざしたほうがいいのかもしれません。
だって、EMANONだから、編集者。
なのに編集長、前に出ていかなくちゃいけないの?? 困ったなあ。

PCのデータ移行してるだけなのになぜこうなる
時代は変わる、メディアも変わる
デジタルやSNSの圧倒的普及で、コミュニケーションの取り方もメディアの形態も大きく変わってきています。
特に2014年のInstagramの浸透は、人々の発信、表現とのかかわりを大きく変える契機となりました。そして今は、有名人でなくてもメディアのサポートがなくても、誰もが自由に発信できることが当たり前の時代です。
無名の方のツイートが10万人以上の支持を得たり、SNS上で無料で公開していた漫画が出版社の目にとまって単行本化されたり。
そう、NO NAMEな人たちが表舞台に出ていくハードルがぐんと下がり、機会は増えている。で、これもまた、EMANON編集者の黒子魂をくすぐるわけです。ああ、この人のこのつぶやきをまとめたい、このイラストで漫画を描いてほしい……。
そんなこんなで、ありがたくもサポートすることができた作品が世に出ていくときの喜びたるや、ハンパないですから。本も雑誌もウェブコンテンツもしかり。
だから前に出ていくのはなんだかなあ、と思いつつも、きっとこのアドバイスをくださった編集長も同じ気持ちをたくさん経験してきたはず。そのうえに立つ金言なり。
そして、担当するメディアや作品の普及のために編集長のみならず編集者たちも、さまざまな機会やツールを駆使して発信していくべきなのは、時代の流れにフィットしていることは間違いないわけで。すでにそうした活動を精力的にこなしている新時代の編集者たちはたくさん登場しています。
よし、己も頑張らねば! と肝に銘じつつも、表舞台に出ていくのはなーんかまだ気がひけるものですから、こんなブログもどきでお茶を濁している小心者の私です。
2022.4.22