「Don’t trust anyone over thirty」から
「Don’t trust under fifty」へ

1940年生まれの活動家、ジャック・ワインバーグ(Jack Weinberg)が考案したスローガン、『Don’t trust anyone over thirty(30歳以上のヤツらは誰も信用するな)』は、ヒッピームーブメント渦巻く1960年代、アメリカの若者の間に、口コミで急速に広まった。

年寄りは信頼できない。
ヤツらから、新しい発想は生まれない。
権威や伝統、体制を打破し、次の時代を作るのは、我々20代以下の若者だ。
そんなメッセージが込められている。

ザ・フーは1965年発表のヒットシングル「マイ・ジェネレーション」で、“歳をとる前に死んじまいたい(I hope I die before I get old)”と歌った。ザ・ジャムも1977年発表のデビュー曲「イン・ザ・シティ」で、“顔が輝いているのはみんな25歳以下だ(And those golden faces are under25)”と叫んだ。
 
30どころか50の壁もとっくに乗り越えている僕は昔から音楽が大好きで、今もライブ会場にしばしば足を運ぶ。もちろん、外タレを含むメジャーバンドの公演を、ホールやスタジアムなどの大きな会場で鑑賞することも多いが、とりわけ心弾むのは、都内の雑居ビルの地下にある、高校生時代から通い慣れた、薄汚れた小さなライブハウスに行くこと。そこで、僕が中高生だった1980年代から継続的に活動しているバンドの演奏を楽しんでいるのだ。

あるとき、そんなライブハウスで汗を流し、拳を突き上げながらも不意に気づいてしまった。これって、なかなかすごい状況なんじゃないかと。

まず客席を見渡してみよう。
長く活動を続けるレジェンドバンドにはもちろん、若いファンも一定数ついているが、大半は僕と同様、うん10年に及ぶファン歴を持つ人たちだ。ということは、平均年齢は軽く50歳を超える。会社では部長職の中年男や、子育てが一段落したお母さんなんかが、客席で激しくモッシュしているわけだ。
そしてステージ上の演者の多くは、50代後半から60代くらいになっているはずだ。アラカンながらいまだトンガリ続け、僕らに熱いメッセージを投げかけるロックスターたちなのである。

まったく“Don’t trust anyone over thirty”どころの騒ぎじゃない。

連載タイトルの“Don’t trust under 50”は、こうした状況を端的に表したもので、別に今の若い世代に敵意や悪意を抱いているわけではない。50代以上の人々を中心に織りなす、現在のインディヴィジュアルなエンタメ事情をレポートしていきたいと思っているのである。
もちろんエンタメといっても人それそれなので、ここは僕個人がもっとも入れ込んでいる、ライブハウスを中心に、“何十年”という単位で継続的に活動するミュージシャンと、そのオーディエンスの今を追いたい。

彼らはなぜ、プレイし続けるのか。
そして僕らはなぜ、彼らを求め続けるのか。

そんな本連載の第一回目ゲストとして、もっともふさわしいのは誰か。
この人しか考えられなかった。