農林水産省の公式YouTubeチャンネル「BUZZMAFF(はずまふ)」。
ネット上で話題になることを意味する「バズる」と、農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称「MAFF」の組み合わせが名前の由来だそうです。
省庁のお堅いイメージを裏切る「大臣の会見に宮崎弁でアフレコを入れる」「政策をラップで歌う」など職員の個性を活かした動画を自ら企画し制作、編集し発信し続けて、話題になっています。
そんなBUZZMAFFチャンネルを牽引している、大臣官房広報評価課広報室の白石優生さんにインタビューしました。
チャンネル登録数15万人越え! 官僚系YouTuber「BUZZMAFF」に注目!
農林水産省の公式YouTubeチャンネル「BUZZMAFF(はずまふ)」は今やチャンネル登録者数が15万人越えの大人気ぶり! でも国家公務員がYouTuberをやっていいの? BUZZMAFFの誕生のきっかけや狙いについて、農林水産省を直撃!
BUZZMAFFの誕生は、江藤前大臣のムチャぶり
―BUZZMAFFの誕生のきっかけはどんなことだったのですか?
「BUZZMAFF」は令和2年1月7日から配信スタートしましたが、チャンネル誕生のきっかけは当時の江藤拓農林水産大臣が「若い人はYouTubeやInstagramを見ているみたいだから、やってみたら?」というムチャぶりな指令でした。
その頃すでに、農林水産省ではYouTubeチャンネルやTwitterのアカウントは持っていたのですが、プレスリリースを流す、政策の内容について図を使って説明するくらいしかしていなかったのです。
これだと農家さんや第一産業に関わる人しか興味を示さないし、若い人や他の業界・業種の人には見てもらえない。
農林水産省を身近に感じてもらえて、もう少し一般の人にも分かりやすいように作ったほうがいいんじゃないかと大臣からのトップダウンがきたのです。それで全国の職員に公募で募っていて、私はそのとき九州農政局にいて入省1年目でしたが、やってみたいと手を挙げました。
―YouTubeの動画作りが業務になるのですか?
そうです。
本業務をこなしながら、業務時間の2割程度を使ってYouTuberとして企画・撮影・編集を行うメンバーの公募で、業務として認められているのも新しいと思いました。

「動画作りの経験はなかったが、これはチャンスだと思って手を挙げた」という白石さん
国家公務員なのにこんなことして大丈夫かという戸惑い
―YouTuberになることに戸惑いはありましたか?
手を挙げたものの、当時は私も省内もうまくいかないかもと思っていました。
ただ、仕組み作りで業務時間の2割を使っていいことと、ルールとして「上司は口を出さない」というのが大きかったです。
公務員あるあるですが、私みたいな若手が何か発案しても課長補佐、課長、局長とどんどん上に確認してもらえばもらうほど、違うものになってしまうのが普通です。
でも、BUZZMAFFの動画作りにおいては自由にやっていいことに。
ただし、もちろんファクトチェックは厳しくやっていますし、公務員としてふさわしくないこと、音楽などの権利関係はしっかりチェックされます。
だいたい行政の情報発信は
・堅くて面白くない
・難しい言葉が多い
・顔を出さない
この3つが特徴でした。なので、自由にできるならその逆を全部やろうと思いました。
公務員は、「税金もらっているくせにふさげている」などと批判されやすいので、どうしても真面目になりますし、難しい言葉になってしまうのも間違って国民に伝わってはいけないという思いからです。
ですが、動画を見てもらうために難しい政策のこともわかりやすく、馴染みやすい言葉や表現で伝えるようにしないといけないと考えました。
3つ目の「顔を出さない」というのは、実は最後まで悩みました。
炎上させたくないから、イラストや匿名でやったほうがいいかもと思っていました。
2年前の当時は自分もYouTuberに対して「炎上」「迷惑」という印象が強く、とにかく炎上が怖かった。
でもそれってずるいなあと。
安全な場所から自分たちが出したい情報だけ発信して、レスポンスはもらわないというのは誰も見てくれないんじゃないかと思ったんです。
農林水産省として、国民に伝えたい情報があるなら、それを届けるためには、ちゃんと顔を出して、「農林水産省の広報室、4年目の白石優生」が言っているほうが聞いてもらえると思い、顔出しすることを決めました。

企画から撮影、動画編集まで職員が行っている
バズったことで省内に革命が起こった!
―手応えはいつ頃感じましたか?
省内で20チームほどで結成し、BUZZMAFFはスタートしましたが、最初は手探りの状態で、どうしたら国民に見てもらえるかわからないまま、やみくもに配信していました。
最初にバズったのが私のチームで制作した「花いっぱいプロジェクト」で、始めて5本目の動画でした。
新型コロナウイルス感染症の影響で、卒業・入学式、結婚式などの式典が減ってしまい、花が売れなくて花農家さんが困っているということを受け、花の消費拡大を呼びかけた動画です。

真面目に花の消費拡大を訴えるうちに、どんどん画面は花で埋め尽くされていく
―私も見ました! わずか1分ほどの動画ですが、真面目に花の消費を呼びかけている間に花でどんどん埋め尽くされる動画ですね
2時間で作って、次の日に配信しました。2日で40万回再生され、反響に驚きました。
花の消費拡大にももちろん繋がったのですが、コメント欄には「こういう動画はどんどんやったほうがいい」「公務員こそやるべきだ」「この動画をOKした上司ナイス!」と応援の声がたくさんいただけたことが大きかったです。
ご批判のコメントもありましたが、多くの視聴者に直接伝えることができたことに手応えを感じました。
想いがあれば伝わると自信になりました。
また、国家公務員がこういう動画を上げることについての議論の場にもなったんじゃないでしょうか。そういうことも含めてバズった動画に!
―バズったことで省内に変化はありましたか?
今まで何か国民に伝えたいことがあれば、記者クラブに行って記事にしてもらったり、新聞広告を打つために予算を取ったりなど、時間もお金もかかりました。
ですが、YouTubeなら、予算をかけず、国民に伝えたいことをすぐに広報することができます。
BUZZMAFFは予算が少ないので、なんでも手作りです。紙芝居を作ったり、パーテーションも手作りしたりしてやっていますが、低予算で作っても、少なくとも15万人に見てもらえて、しかも早く伝わる!
また、我々の仕事は制度や施策を作ることで広報は仕事じゃないと思っていた職員が多かったのですが、この動画がバズったことで、職員それぞれ自分がやっている仕事をどうしたら国民に伝わるのか考えるようになりました。
予算がないから、時間がないから、は言い訳にならない。
これによって、広報案件がすごく増えましたし、相談も多くなりました。
省内においてはちょっとした革命になったと思っています。

カメラの取り合いになるほど、多くの動画が配信されている
取材・文/百田なつき 撮影/花田梢
新着記事
自衛隊が抱える病いをえぐり出した…防衛大現役教授による実名告発を軍事史研究者・大木毅が読む。「防大と諸幹部学校の現状改善は急務だが、自衛隊の存在意義と規範の確定がなければ、問題の根絶は期待できない」
防衛大論考――私はこう読んだ#2
世界一リッチな女性警察官・麗子の誕生の秘密
「わかってる! 今だけだから! フィリピンにお金送るのも!」毎月20万以上を祖国に送金するフィリピンパブ嬢と結婚して痛感する「出稼ぎに頼る国家体質」
『フィリピンパブ嬢の経済学』#1
「働かなくても暮らせるくらいで稼いだのに、全部家族が使ってしまった」祖国への送金を誇りに思っていたフィリピンパブ嬢が直面した家族崩壊
『フィリピンパブ嬢の経済学』#2