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技術に関する流行り廃りを示すガートナー社の「ハイプ・サイクル」という図では、AIはすでに日本において「過度な期待のピーク期」を終え、「幻滅期」を経たところで、一時に比べると、「AIだ、AIだ」と騒がれなくなったように思われる。

しかし、『純粋機械化経済 頭脳資本主義と日本の没落』(日経ビジネス人文庫)などの著作を持つ駒澤大学経済学部の井上智洋准教授は、「重要な技術は幻滅期を過ぎてからが本番で、そこから本格的に普及していきます。その最たるものがインターネット。2000年代初頭にドットコムバブル(=インターネットバブル)が弾けてから、GAFAが巨大企業になった。だから、世間の注目度の低下はAI技術の停滞をまったく意味していない」と語る。本当の大変化はこれから起こり、それに乗れない国や人は没落していきかねない、と。井上氏に聞いた。

たとえ汎用人工知能が登場しなくても大変化は起こる

――まず、AI技術の進歩について教えてください。近年、出て来た重要な技術にはどんなものがありますか?

井上 たとえば、GAN、GANsと呼ばれる「敵対的生成ネットワーク」。これを使えば、特定人物の本物そっくりの画像や動画を作れるようになりました。これは今後、国際的なプロパガンダで盛んに使われるようになると思われる技術で、ロシアがこの技術を用いて、ウクライナのゼレンスキー大統領のニセ動画を流したことがすでに話題になっています。

あるいは2020年に、AIを研究する非営利団体のOpenAIが発表した高性能な言語モデルGPT-3(Generative Pre-trained Transformer 3)を用いると、コードを使わず、日本語や英語のような自然言語を使ってプログラムを作ることができます。大げさに言えば、専門の技術を持ったプログラマーが必要なくなるということです。このように続々とAIに関する新技術は出てきています。

――井上先生は「現在の単一機能しか持たないAIではなく、多様な用途に使える汎用AIが2030年頃に誕生して普及すれば、2045年には働いている人間は1割しかいなくなる」と唱えています。汎用AIができなかった場合にはこのシナリオは変わってきますか?

井上 普及しなかった場合についてもリサーチしていますが、たとえば、内閣府のビジョナリー会議は「2040年に建設工事の完全無人化」を達成すべき目標として掲げています。私が検討した限り、普及するかはともかく、2040年までに建設工事をほぼ完全無人化するために必要な技術が出そろう可能性はあります。

建設機械のコマツなどはすでに自動建機の導入に積極的ですね。もちろん技術的に完成したり、あるいは普及したりするまでには時間がかかる分野もあります。しかし2060年頃には、ほぼ完全無人化が実現していてもおかしくないと考えています。

――半世紀もしないうちにそうなると考えると、劇的な変化ですね。

井上 また、政府の人工知能技術戦略会議は「2030年に物流完全無人化」を唱えています。たとえば、現時点では倉庫の中でのピッキング作業、ものをつかんで段ボールに入れるといった部分は機械に完全に置き換えるのが難しいけれど、2030年頃には可能になるでしょう。

ただ普及するまでにさらに時間がかかりますですから、おおよそ、国が予想している15年、20年遅れで実現すると思っていればいいのではないかな、と。「汎用人工知能」が仮に実現しなくても個々の分野での自動化、無人化が進行していきますから、10年、20年単位で見れば相当変わっていきます。