岩屋氏が王毅外相に伝えたこと

これは、首脳や閣僚の会談を再開するという約束ではない。対話を求めて北京へ出向き、東京にいる大使を示された。首相答弁を巡っては、岩屋氏の方から打開案を出している。

10月7日の時事通信のインタビューによると、首相は追加答弁などで政府方針が変わっていないと説明しており、撤回には政治的に高いハードルがあると王毅氏に伝えた。そこで1972年の日中共同声明の趣旨を両政府で改めて確認し、「事実上の撤回」として扱う案を示した。

岩屋氏によれば、王毅氏は、曖昧な方法はよくない、問題を起こした本人が解決すべきだと退けたという。

中国の王毅外相
中国の王毅外相

国交正常化の際の合意を確認するだけなら、両国の立場を確かめる話だ。そこに、首相の答弁を撤回扱いにする意味を付け加えたのは岩屋氏だ。少なくともこの提案は、中国側の要求に沿って、日本側の引き下がり方を探っているように見える。

岩屋氏が撤回の難しさを政治上の問題として説明すれば、中国には、日本側も撤回の方法を探していると受け取られかねない。王毅氏はその案さえ拒否した。私が批判するのは、中国の要求の妥当性より、日本がどう応じるかという話に踏み込んだ点だ。

経済団体の会長による訪問で、首相の国会答弁の扱いまで代案を提示した点も見過ごせない。

懸案が片づいたという話は出てこない

岩屋氏の公式サイトに掲載された10月2日付の訪中報告には、訪問の主たる目的は経済交流の円滑化と活性化であり、日本政府による関係改善の努力を国貿促として側面から支援していくとの説明がある。

ただし、この報告からは、首相答弁を「事実上の撤回」とする提案について、政府の了解があったかは分からない。首相の答弁を事実上取り消す提案について、政府とどこまで調整したのか。

岩屋氏が説明すべきなのは、政府との連絡の有無にとどまらず、この提案に対する政府の了解の有無と、その範囲だ。

岩屋氏は地元の会見で、外交は政府間で行うものだとも述べている。政府の仕事と民間交流の境目を承知していたわけだ。首相答弁の扱いに関する代案を中国側に示す以上、経済団体として行ったという説明だけでは足りない。

レアアースの対日輸出についても、何立峰氏から返ってきたのは、民生用、つまり軍事用途以外なら問題ないという説明だった。

中国商務省は1月8日の会見で、対日軍民両用品輸出管理について、民生用途に影響はないと述べている。民生用途への基本的な説明は、8カ月以上前と同じだった。

一方、時事通信によると、何氏は管理方法の改善を模索しているとも説明したという。だが、それが実際の輸出円滑化につながるかは見通せない。帰国後の岩屋氏自身がロイターに、現場では輸入がかなり滞っているとの見方を示した。

対話再開は大使に一任、撤回の代案は拒否、輸出の滞りには従来の説明。本人が明らかにした3つのやり取りからは、対話再開や輸出停滞の解消について、具体的な合意が得られたとは確認できない。