人を見ても逃げない「問題個体」は、普通のクマとは別物
ここでひとつ、考え方を示しておきたい。普通のクマと「問題個体」は別物である点だ。
問題個体は人を見ても逃げないし、むしろ近づいてくる。ゴミや食べ物に執着し、同じ場所に繰り返し現われる。威嚇したり人を襲ったりする。生まれつき凶暴なわけではなく、人間の近くで「成功体験」を重ねた個体であることが多い。人間は危険ではないし、おいしいものを持っている。そう学習したクマは、人がいても気にせず、食べ物を求めて近づいてくることすらある。
この問題個体に対して登山者ができることは多くはない。できるのは「問題個体がいるとわかっているエリアに近づかない」くらいだ。人が襲われたというニュースがあった山域には、そのクマが捕獲されるまで近づかない。人馴れしたクマがいるという情報があれば、そこには行かない。
毎回「人を恐れないクマがいるかもしれない」という前提で警戒していたら、登山そのものが成り立たなくなる。フルフェイスのヘルメットを被ってクマスプレーを構えながら歩くのは、現実的ではない。だから普通の登山では「問題個体はいない前提」で行動し、いわゆる一般的なクマ対策、出合い頭を避ける対策をきちんとやる。そのうえで、問題個体の情報には別枠で気を配る。この切り分けが大事だ。
ゴミひとつ残すことが「次の問題個体」を生む
そして登山者としていちばん大事なのは、クマに食べ物の味を覚えさせないことだ。問題個体を生む機会をつくらないこと、と言ってもいい。テントの外に食料を置かない。ゴミを残さない。フードロッカーがあれば使う。食料の入ったザックを放置して離れない。一人一人のこうした行動が、次の問題個体を作らないことにつながる。
もしケガをしたら、できるだけ早く下山して医療機関に駆け込んでほしい。興奮によりアドレナリンが分泌されると、痛みを感じなくなる。傷口から細菌に感染するので、ひどいケガはもちろん、一発ひっかかれた程度でも、必ず受診してほしい。
文/的場一峰 写真/shutterstock













