本当に、保険は難しい山だけで十分なのか?
このような数字を見ていると、多くの人が「遭難確率の高そうな厳しい山に行くときだけ保険に入ればいい」と考えるのではないだろうか。しかしこれは「遭難するような山に私は行かない」という発言と、ほぼ同じ発想である。厳しくない山での遭難確率は高くないから保険は不要、という判断だ。
しかし、簡単な山でも一定の確率で遭難は起きる。濡れた木の根やちょっとした段差に足を取られて転倒し、骨折する。こういった事態はどの山でも十分に起こりうる。人けのない低山で沢に落ちてしまったら、誰にも発見されず、遭難は長期化する。長期化した捜索には、数百万円単位のお金がかかる。
では人が多い、人気の山であれば安全かというと、また別の問題がある。混雑した登山道では、他の登山者の落石で自分がケガをする可能性もあれば、逆に自分が落石を起こして他人にケガをさせる可能性もある。
保険でカバーすべきリスクの優先順位を考えると、「確率は低くても、一度起きると深刻な苦境に陥るもの」に対処するのが本来の意義だ。骨折等のケガについては、自己負担限度額を超えた医療費を支給する高額療養費制度があり、実際に支払う金額は数万円から多くても数十万円程度だ。しかし、他の登山者にケガをさせた場合の賠償責任や長期捜索の費用は、数百万円から数千万円以上になりうる。「一度起きると取り返しのつかない事態」への備えを優先してほしい。
遭難の確率ゼロの山は存在しない。十分な準備を心がけよう
「遭難するような山に私は行かない」は、ある意味では正しい。危険な山に行かないことで遭難の確率を下げられるからだ。しかし「遭難するような山が存在する」といった前提そのものが、遭難の現実とずれている。登山道がある山であれば、どんな山でも遭難のリスクはゼロではない。
大切なのは、低い確率の遭難に対してどう備えるかを、確率の正確な理解に基づいて考えることだ。
遭難を他人事として遠ざけるのではなく、「自分にも遭難する可能性がある」と認識したうえで、登山届の提出、アプリの活用、保険の加入など、複数の対策をとる。その姿勢が、長く安全に山を楽しむための土台になり、あなたが山に何度も行くほど、この準備が意味を持ってくる。
文/的場一峰 写真/shutterstock













