可能な限り事前排除する
斉藤 教員の採用段階でのチェックも厳しいのでしょうか?
末冨 採用時には、小児性愛症ではないか、子どもへの不適切な関わりを容認しないかなどに関する詳細な面接、推薦者への人物確認など、何重もの手続きが課されています。犯罪歴の確認も、職種によりレベル分けされていますが、教員だけでなく、スクールバスの運転手やボランティア、学校内で日常的に子どもに接する売店の店員まで、子どもに関わるありとあらゆる大人が対象です。
さらに、性暴力や不適切指導、ハラスメントを禁じた行動規範(Code of conduct)への同意も必須です。これには身体的接触だけでなく、性的な接触を図る目的で大人が子どもを手なずける「性的グルーミング」の禁止や、許可なく児童・生徒と2人きりにならないなど、事細かなルールが記されています。
この行動規範では、教職員やスタッフ間でのハラスメントなども禁止行為とされています。大人同士の安全・安心を脅かす行為も排除することで、学校全体の安全を実現する基本設計となっています。
斉藤 DBSのチェックや厳しい採用基準を経た後も、安全保護のための取り組みは続くのでしょうか。
末冨 採用後も、各学校で最低でも年1回、性暴力を防ぐための研修は必須です。また、学校だけでなく、基礎自治体が学校内外で働く人々に向けて独自研修を実施したり、業界別のワークショップも盛んに開催されたりしています。子どもに関わる大人たちの間では、性暴力は許されないこと、疑い事例も含めて通報義務があること、何より被害者を最優先して事態の改善に当たることなどが、いわば当然のルールとして共有されているのです。
斉藤 そう考えると、日本の教育現場は課題山積です。
末冨 イギリスでは、学童の施設長さんがアルバイトの若者に「子どもの様子がちょっとでもおかしいと思ったら、すぐに私に教えてね」など口を酸っぱくして言っているそうです。その根底にあるのが「人権侵害や加害行為を隠蔽する文化を子どもの現場につくらない」という価値観です。これがセーフガーディングを通じて、学校や子どもの現場全体にしっかりと醸成されているのだと思います。
隠蔽か、被害者保護か
末冨 ちなみにセーフガーディングのルールでは、学校内で性暴力が起きた場合、「被害者保護」が最優先です。被害者のプライバシーを守り、二次被害を防ぐため、警察、児童相談所、自治体、そして学校も最低限の情報公開しか行いません。
2026年2月、日大三高(日本大学第三高校)の野球部で児童ポルノが拡散されるセクストーション(「セックス(性的)」と「エクストーション(脅迫・ゆすり)」を合わせた造語で、「性的脅迫」を指す。たとえば、取得した性的な画像や動画を「ネット上にばらまく」と脅迫して金銭を要求したり、さらに過度な画像を要求したりすること)事件があり、加害者2名が書類送検されました。
情報の開示にタイムラグがあったことから、当初は日本大学側に「隠蔽だ」という批判の声が寄せられました。ただ実は、学校側は警察の捜査に協力し、警察からの指導により被害者保護のため情報開示に慎重だった、これが真相です。
ところが、こともあろうか捜査関係者のリークからメディアが裏取りなく報道。結果的に被害者や家族を傷つけ、二次被害に晒す悪質なアウティングとなりました。
斉藤 学校は被害者保護のために適切に情報を控えていたにもかかわらず、組織的な隠蔽だと思われてしまったのですね。
末冨 何より守らなければならないのは被害者です。日本の警察やメディアも、被害者の安全を最優先する法令上の基準を設けなくてはならないと思います。
写真/shutterstock













